演劇

97/125
前へ
/500ページ
次へ
(うーん……) ほんの少しの間、傍らの女の子を横目に思案していた俺は……。 やがて胸に浮かんだ一つの結論を元に、彼女にちょっとした小技を掛ける事にした。 (よし、それじゃあ……) こほん、と、小さく咳払いをした後に、軽く息を吸い込んでから、 「『……本日はいかがいたしましたか? アデレード様。あまり、お元気でいらっしゃられないご様子ですが』」 俺は、ちょっと格好つけた感じの、気障な台詞……。 『聖騎士』に登場する主要人物である、騎士団長グリフレットになりきってエルに語り掛けた。 「えっ?」 突然エチュードを始めたこちらに対して、きょとんとした表情を浮かべる彼女には構わず、マイペースにグリフレットを続けていく。 「『もしかいたしましたら、何かお悩み事でも? でしたら、ぜひ私に話していただけませんか? 必ず、アデレード様のお力になってみせますので』」 「……あ、『け、結構です、グリフレット。別に、あなたに話すような事など何もありません。失礼な事を言わないでください』」 ここで、エルは俺の考えにそれとなく感付いたらしい。 一瞬、彼女は大きく目を見開いた後に、続けて外連味たっぷりにお姫様の台詞を口にした。
/500ページ

最初のコメントを投稿しよう!

368人が本棚に入れています
本棚に追加