演劇

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鷹揚(おうよう)に首を左右に振ってから、 「『そもそも、自分自身の今後についての懸念など誰しも等しく抱いているものでしょう。……確かにアデレード様には、王女様というお立場もあります。当然、私には分からないお悩みや心配事も沢山ある事でしょう』」 「『…………』」 じっと黙って聞いてくれているエルの真剣な顔を真っ直ぐに見つめながら、俺は更に続ける。 「『ですが、それがなんだと言うのでしょうか? 見えない明日に手を伸ばして、迷いながらも一歩ずつ進んで行く事に、身分や立場などは関係ありません。例え、あなたが誰から何を言われようと……。誰が何を言おうとも、アデレード様の運命はアデレード様ご自身の手で切り開くものなのですから』」 「『グリフレット……』」 「『苦しみながら、それでもあなたが勇気を出して選んだ道。それこそが、きっと“いくら抗ったところでどうしようもない物事の巡り合わせ”さえ好転させられる、最善の道なのでしょう』」 そこまで言い終えてから、俺はエルに向けてそっと照れ笑いを浮かべた。 「なんて、ね……」 ……今回、俺がこんな事をした理由。 突然の寸劇……。それも、少々回りくどい演技を行ったのは、普通の方法ではきっと伝える事の出来ない言葉を伝えたかったから。 ……例えこれが自己満足で終わったとしても、運命はどうしようもないものだと語る彼女に、たった一言、『きっと、そんな事ないよ』って笑いかけたかったから…………。 「……うん。ありがとう、アリシアちゃん」
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