演劇

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「……ごめんね、エルちゃん。歯ブラシまで予備の使わせてもらっちゃって…………」 あはは……。と、彼女に頼りっきりの気まずさを誤魔化すために苦笑しつつ、ぽりぽりと頬をかく俺に、 「ううん、いいよ。……でも、代わりに今度はアリシアちゃんのお部屋にお泊りさせて欲しいなぁ」 少し子供っぽい、フード付きのパジャマを着込んだエルは、どこか甘えるような調子で言った。 「……う、うん。そうだね…………」 一応笑顔で頷きながらも、実際に彼女が訪ねて来た場合のアレックス達の説明はどうしよう……と、こちらとしては、つい心の片隅で考えてしまう。 まさか本当の事を話すわけにはいかない。 かといって、下手な嘘などついたところでどうせすぐにバレてしまう事は目に見えている。 ……はてさて、どうしたものだろう。 ううむ、と、エルの訪問対策の事で心の中で唸(うな)っていると、 「じゃあ、そろそろ寝よ?」 一足先にベッドに入ったエルが、ぽんぽんと自分の隣のスペースを叩きながら俺を促す。 「あ、うん」 返事をしてから、俺も彼女の布団に入ろうとして……。 ……直後に、ぴたりと体の動きを止めた。 「アリシアちゃん?」 「……ね、ねぇ、エルちゃん。その、本当に何から何まで申し訳ないっていうか、凄く心苦しいんだけど…………。もし大丈夫なら、余ってる布団……。ううん。遠征任務用の寝袋とか、貸してもらえないかな? ちゃんと洗って返すから……」
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