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第一話
高校一年生の春。新しい生活への大きな不安と、少しの期待。
いきなり全てが順調に行くなんて思ってはいない。
それでも、まさかここまでうまく行かないとは思わなかった。
「植田愛(ウエダ アイ)! あんた、さっきはよくも西ノ上くんに色目を使ったわね!」
「わざとぶつかってボディタッチを果たした挙句に気を引こうだなんて、あざとい奴だ!」
「とんだ淫乱策略家にゃ!」
昼休みの屋上。クラスメイトの女子生徒三人組に半ば無理やり呼び出され、ここまで連れてこられた。
すぐ背後には落下防止のフェンスが設置されているが、下からせり上がる風がやけに冷たい。
まさか入学して一ヶ月も経たないうちに、このような逆境に立たされようとは。
クラスの男子が慌てていてぶつかっただけなのに、こちらからボディタッチをしたとか、色目を使ったなどと因縁をつけられてしまった。
「あんたどうせ自分が可愛いとか勘違いしてんでしょう? ちゃんちゃらおかしいわ、この不細工が!」
「そうだ、このキングオブ不細工!!」
「六十億人類の頂に立つ不細工にゃ!!」
たいして仲がよい友人も出来ていないのに、こんな風に暴言を次々と浴びせかけられるなんて。
誰にも相談が出来ないのに、このまま変な噂を流されたり、毎日嫌がらせをされたりしてしまうのだろうか。
それだけは、何とか避けたかった。
「ったく。WBA(世界ブサイク協会)の世界王者でも狙ってんのかしら、このさかりのついたメス猫は」
「こういう一見、大人しそうな清純派が裏ではなにやってるか分かんねえんだよな」
「裏の顔を写メって学校中に配ってやるにゃ!」
一人の女子が携帯電話を取りだし、こちらに構える。
「……っ、めてください……」
「ああ?」
「や、やめて……ください……」
うつむきながら、必死に声を絞り出す。
震える手で、制服の赤いチェック柄のスカートをぎゅっと握り締める。
「何言ってっか分かんないんだよ、このブス!!」
肩を突き飛ばされ、耳元でフェンスの鳴る音が響いた。
「おら、とっとと撮っちまえ!」
「隠してる手をどかすにゃ!」
「やめ、やめてっ、ください……っ!」
怖い。
フェンスに押し込まれ、必死で顔を隠している腕を捕まれた。
制服のベージュ色のジャケットと長袖の白いシャツの生地を通じて、指が食い込むのを感じる。
左肩の横で結った黒髪も乱暴に引っ張られる。
痛かった。辛かった。
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