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六月の雨が仕事場の窓をたたいている。
聞こえてくるのは、その雨音と小刀が木を削る小気味の良い音。
それらが僕に深い集中力を与えてくれる。
無心に手を動かしているといつの間にかヒザの上にはたくさんの木クズ。
しんしんと降り積もる雪のように僕のヒザをおおう木クズ達…
その中からやがて生まれくる一つのカタチ。
その木クズを手のひらにすくってみると、有るか無きかのはかない重さの中に木という生命の重みを感じる。
よく周りの人達に
『この木は彫刻してもらえて、みんなに見てもらえて幸せやなぁ』
なんて言われる事がある。
はたして本当にそうなのだろうか?
やはり木は木として大地に根をはり、
春には花を咲かせ、
夏には葉をしげらせ、
秋には実を結び、
冬には落ち葉を落とし、虫達に寝床を与えてあげたかったのではないだろうか?
その大木の下に生まれる木陰を愛していた、人や、鳥や、虫達がいたのではないだろうか?
モノを作るという事は、モノを壊す事につながっている。
それは彫刻にかぎった事ではなく、全ての事に対して言えるのではないだろうか…
作る事は壊す事、
この矛盾を抱えながら僕は今日も小刀を手に取る。
そして出来上がった作品だけを見るのではなく、その作品が完成するまでに壊され、捨て去られたモノを僕は忘れずに心にとどめておけるような、
そんな職人になりたい。
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