優しい渚真琴と──

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「ねぇ、ナギ離してよ」 「嫌だ」 しっかりと、ガッチリとナギは固定してくる。俺はそんなナギから逃げることが出来ない。 力が足りない。 「ナギ」 「なに」 「ナギの汚物が太股に当たって気持ち悪い」 「汚物言うなよ!」 そう言えば、ナギは俺を解放した。 俺は何事もなかったように、蛇口を捻ってシャワーからお湯を出す。 まあ、いつものこと、と言うこともあるけど。 「ナギ、髪」 「髪がどうしたんだ?」 「洗ってくれるんでしょ」 は?みたいな顔をされてしまった。 けど、すぐに理解したように俺だけが使うシャンプーを手に取って、俺の頭を洗い出してくれる。 わしゃわしゃわしゃと。 「…猫みたいだよな、おまえ」 「どういうこと?」 「なんかさ。気まぐれだし、こうやって髪洗って貰うの好きじゃん?なんか、そーいうとこ」 確かに猫は好きだけど、猫と一緒にされるのはあまり嬉しくない。 俺、そこまでゴロゴロしてない。 「そーいうナギは犬っぽいよな。絶対服従」 「おまっ、馬鹿にしただろ!なんだよ、絶対服従って」 だって、そんな感じしたし。 ナギって絶対に家に懐くより、人に懐くタイプだと思うんだ。 まあ、知らないけど。 知ろうとも思わない。 面倒だ。 「おまえ今、めんどくさいとか思ったろ」 「なんでわかったの」 「顔に直ぐ出んだよ、おまえ。俺だからまだめんどくさいとか、ハッキリ言っても大丈夫だけど、外ではあんまり口にするなよ」 「…わかった」 でも、思うのはいいよね、って思う。 心の声が相手に聞こえる訳でもないのに。 少しナギは大袈裟だと思う。 そんな、自分のことでもないのに。 まあ、昔からだけど。 「おまえ、毛先痛んでるな」 「そうなの?」 「ちゃんと手入れしてんのか?」 「ナギに言われたくないけど。ナギだっていつも寝癖のまま、学校に来るよね?」 「けど、俺の髪は痛んでない」 「どっちでもいいよ」 どうでもいい。 髪の手入れなんて面倒な真似したくないし。それに、手入れなんてどうせ、ナギだってしていないに決まってる。 それに髪が痛んでいようといなかろうと、本当どうでもいい。 髪の泡を洗い流して、ナギは次にボディーソープを手に取った。 「体はいいよ。自分で洗うから」 体までさすがに、ナギに洗ってもらいはしない。
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