303人が本棚に入れています
本棚に追加
「ナギ」
「あ?」
「家はいいのか?」
また、湯船に体を浸からせ、俺はナギにそう質問をした。
ナギの家のことはどうでもいい。
けど、どうしても落ち着かなかった。
ナギの裸は何度も見ているし、風呂も何度も一緒に入っている。
何度も何度も何度も。
だけど、今は無性に落ち着かない。
湯船に浸かりながら、ナギの膝に座りながら。
これも、いつものことなのに。
「別に、気にすることじゃないだろ。俺の家なんて。どうせ近いし、親もおまえの家にいると直ぐ解るだろ」
そうだけど、って感じ。
こんな言葉に詰まるような真似あまりしないのに。
はぁ、落ち着かない。
「まぁ、そうだね。でも、時間遅い」
「大丈夫だって。上がったら帰るから。な、それで良いだろ」
「…ウン。俺、先上がる」
そろそろ逆上せてしまいそうだった。
頭がボーッとして、なんだかくらくらすると言うか、思考が鈍っている気がする。
変な気分だ。
「ん、ああ」
先に風呂場から出て、置いてあるバスタオルに顔を埋めた。
「はぁ~」
バスタオルの少しの冷たさが顔に心地いい。ずっと、バスタオルに顔を埋めていたい、なんて思う。
洗面所にある鏡に映る自分に目を止める。
頬が桜色をしている。
やっぱり、逆上せていたんだ。
一瞬でも、湯船から上がったとき、立ち眩みをしてしまっていた。
母さんに、アイスを貰って涼もう。
そう思って、とっとと体を拭き、下着だけ身につけ、頭を乾かすことなくバスタオルを頭に掛けたまま、その場を出た。
「早かったのね、瑠衣」
「ン、お湯熱かった」
「あぁ、逆上せたのねぇ。昔から熱いお湯とか、熱いものとか、暑い季節。弱いわよねぇ」
母さんは俺の心情を理解してか、直ぐに冷凍庫からアイスを渡してくれた。
棒付きの風呂上がりには丁度良い、安っぽいソーダー味のガリガリしたアイス。
袋から出して、口に咥えたままリビングのソファに座って、流れていたどうでもいいテレビを眺めた。
『いやぁ、最近は同性愛者が多いらしいですねぇ。なんだか自分の身近にも居ると思うと不思議な感覚ですね』
なんだ、この番組。
『でも、女性の間ではそういったことが好きな方も居るみたいですよ』
ふぅん。
つまんないな、この番組。
「るいー、おまえ何観てんの?」
「同性愛」
「は…?」
最初のコメントを投稿しよう!