優しい渚真琴と──

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「おいっ」 「……んぅ、」 肩をトントン、と叩かれる。 頭の中では、それがナギなんだと解っている。だけど、起きるのが面倒で、起きるのが嫌だ。 「おい、瑠尹。いい加減、起きろっ」 「…うるさい」 肩を揺さぶられ、俺はナギの手を弾く。 「うし、起きたな」 結構、酷い扱いをしたと思うのに、ナギはこうして笑って、相手をしてくれる。 たぶん、俺とこうしてつき合えるのは、ナギみたいに器がデカくなきゃ無理だろうと思う。 自分で言うのも、アレなんだけど。 「起きてないよ……」 そう言って、俺はまた寝ようとする。 けど、ナギがそうさせてくれない。 「また寝る気か?おまえは一度寝るとしばらくは起きないんだから。一度起きたら時間を確認すると良い」 「…時間………?」 顔を上げて時計を見ようとする。 その前に辺りを見れば、教室にいるのは、俺とナギだけ。 教室は夕暮れで、少し赤く染まっている。 時計も十七時を指していて、夕方だと言うのがわかる。 俺、何時に寝たっけ…? 「ナギ…帰るの?」 「は?瑠尹は帰らないのか」 「…ん、帰るよ」 欠伸をして席を立つ。 机の横に掛けてある通学鞄を持って、ナギを見て、手を出す。 「帰ろ…ナギ」 ナギは俺の出した手を握って、頷く。 いつもこんな毎日。 俺は寝て、帰りは手を繋いで帰る。 別に幼なじみだし。 気にすることはなにもない。 そう思ってるのは… やっぱり、俺だけ? 「な、瑠尹。帰りにさ、クレープ食ってかね?」 「くれーぷ…?俺、金ないけど」 帰り道を歩きながら、俺はナギを見上げて口にする。 ナギは、俺の頭を撫でて、笑いながら口を開く。 「いいぜぇ。俺が買ってやるよ」 「じゃあ、いいよ。どこのクレープ屋なの?」 「んー?ほら、なんか最近学校で話題の新しく出たクレープ屋あるじゃん? そ・こ」 「ふぅん」 まあ、場所なんてあんまり興味ないんだけど、と思うけど、それを言ったら言ったで、めんどくさいことになるので、止めておく。 「んでも、男二人でクレープは流石に浮くなぁ」 「そう……?…なら、俺じゃなくて、友達の女を誘えば良かったじゃん」 「あのなぁ、第一優先はおまえに決まってんだろ?それに、おまえ人見知り激しいからな」 「大丈夫。その場合…俺、ナギ置いて帰るから」 「まじかよ」
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