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「はむ…」
薄いクレープの皮がしんわりとして、簡単に食べ終われる。
もう、陽が沈み掛けていて、クレープ屋もしまり掛けていた。
そんな中、押しかけた形で来てしまったけど、店員さんは笑顔で対応し、俺とナギの分のクレープを作ってくれた。
アスファルトに自分の影が延び、それを眺めながらクレープを食べる。
「…美味い?」
「…まぁ…それなりに、あっ」
ナギが勝手に俺のクレープを一口もらっていく。
睨むようにナギを見る。
「勝手に食べるな。ナギの一口は大きいんだし」
「…ほら」
ナギは、俺にクレープを向ける。
むすっ、としてしまうけど、そのクレープを一口食べて、クリームを舐めとる。
「おあいこ」
にこっ、と笑ってナギは前を向く。
こういうナギの笑顔には心なしか弱い。
ナギから目を逸らし、自分のクレープを食べる。
甘い味が口に広がって、バナナの味がする。
「ナギ」
「あ?」
「ナギにクレープって…似合わないよ」
「るせっ」
ナギは少し怒ったようにして言うけど、怒っていないというのは知っていた。
とっととクレープを食べ終われば、また、ナギと手を繋げる。
そう思いながらも、一口一口が大きくない俺には、直ぐに食べ終わることが出来なかった。
いつも、ナギが俺より早い。
「あのさ」
「……?」
「バスケ。またやらないか?」
「嫌だよ」
「そっか」
一応、ナギは部活をしていて、バスケ部。
高校一年までは、俺もバスケをしていたけど、止めた。小学生の頃から、ナギに付き合わせられ、ずっとバスケをしてきたけど、なんか、どうでも良くなった。
「……」
ふと、右側にある公園に目を止めた。
もう、暗くなると言うのに、子供達がバスケをしている。
この子供達を見てのナギの質問だったらしい。
そんな、子供達の使っていたバスケットボールが俺の所に転がってくる。
取り敢えず、ナギにクレープを預けてボールを拾うけど、ボーッとそのボールを眺めてしまう。
「お兄さん、ボールちょーだい」
お兄さんと言われることがまずなかった為、え?と思いながら、公園を向く。
ナギを見れば、頷いてくる。
仕方なく、と言った感じに、俺は子供にボールを投げた。
様になっている投げ方。
癖付いている。
手は確実にボールの形を記憶してる。
「…ばいばい」
手を振って、公園から目を逸らし、再び歩き始めた。
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