優しい渚真琴と──

5/22

304人が本棚に入れています
本棚に追加
/259ページ
「はむ…」 薄いクレープの皮がしんわりとして、簡単に食べ終われる。 もう、陽が沈み掛けていて、クレープ屋もしまり掛けていた。 そんな中、押しかけた形で来てしまったけど、店員さんは笑顔で対応し、俺とナギの分のクレープを作ってくれた。 アスファルトに自分の影が延び、それを眺めながらクレープを食べる。 「…美味い?」 「…まぁ…それなりに、あっ」 ナギが勝手に俺のクレープを一口もらっていく。 睨むようにナギを見る。 「勝手に食べるな。ナギの一口は大きいんだし」 「…ほら」 ナギは、俺にクレープを向ける。 むすっ、としてしまうけど、そのクレープを一口食べて、クリームを舐めとる。 「おあいこ」 にこっ、と笑ってナギは前を向く。 こういうナギの笑顔には心なしか弱い。 ナギから目を逸らし、自分のクレープを食べる。 甘い味が口に広がって、バナナの味がする。 「ナギ」 「あ?」 「ナギにクレープって…似合わないよ」 「るせっ」 ナギは少し怒ったようにして言うけど、怒っていないというのは知っていた。 とっととクレープを食べ終われば、また、ナギと手を繋げる。 そう思いながらも、一口一口が大きくない俺には、直ぐに食べ終わることが出来なかった。 いつも、ナギが俺より早い。 「あのさ」 「……?」 「バスケ。またやらないか?」 「嫌だよ」 「そっか」 一応、ナギは部活をしていて、バスケ部。 高校一年までは、俺もバスケをしていたけど、止めた。小学生の頃から、ナギに付き合わせられ、ずっとバスケをしてきたけど、なんか、どうでも良くなった。 「……」 ふと、右側にある公園に目を止めた。 もう、暗くなると言うのに、子供達がバスケをしている。 この子供達を見てのナギの質問だったらしい。 そんな、子供達の使っていたバスケットボールが俺の所に転がってくる。 取り敢えず、ナギにクレープを預けてボールを拾うけど、ボーッとそのボールを眺めてしまう。 「お兄さん、ボールちょーだい」 お兄さんと言われることがまずなかった為、え?と思いながら、公園を向く。 ナギを見れば、頷いてくる。 仕方なく、と言った感じに、俺は子供にボールを投げた。 様になっている投げ方。 癖付いている。 手は確実にボールの形を記憶してる。 「…ばいばい」 手を振って、公園から目を逸らし、再び歩き始めた。
/259ページ

最初のコメントを投稿しよう!

304人が本棚に入れています
本棚に追加