優しい渚真琴と──

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「…ナギ」 「なに」 俺は家の前で立ち止まる。 家の明かりは着いてなくて、両親が出掛けてるって解る。 「ナギの家。通り過ぎたよ」 「ああ、だな」 そんな反応をされても困る。 それが正直な言葉だったけど、でもまあ、幼なじみだし。 ポストの中にある家の鍵を取って、少し古い横開きの扉の鍵穴に鍵を刺す。 カチャ── ガラガラガラと扉を開いて、玄関に足を入れる。廊下の電気を着けて、後ろを向く。 「なにしてるの?」 「いや、なにって」 「上がんないの?その為に来たんじゃないの?」 見送り。 それだけで、ナギが俺の家の前まで来るなんて有り得ない。 ナギは頭を掻いて、玄関まで来る。 「お見通しすか」 「幼なじみだから」 欠伸をして二階に上がる。 一つの部屋を通り過ぎて、自分の部屋に入る。もちろん、ナギも付いて来て、当たり前のように、俺の部屋でくつろぐ。 でも、いつものことだから気にすることもない。 ベッドに座って俺は俺で、携帯をいじる。母さんからメールが来ていた。 『少し帰り遅くなります』 そんな短文のメール。 特に返信することなく、携帯を枕にへと投げ捨てた。 「おまえん部屋は相も変わらず殺風景だなぁ」 「そうかな。ゲームとか漫画本とか、あるけど」 「そういうのじゃなくてさ。小物とか、ねぇじゃん?」 「ナギの部屋だって無いじゃん」 「まぁ、そうだけど」 大体ナギの言いたいことも解る。 ゲームとか漫画ばかりしてないで、少しは運動しろよ、とか。 寝てばかりいないで、とか。 きっと、そういうこと。 表情とか、ちょっとした言葉とか。 ちょっとした行動とか。 そういうことで、ナギのことが解る。 今日、俺の部屋に来た訳も。 「それで、どうしたの?ナギ」 「いやさぁ、おまえ寝てたから知らねーだろうけど、なんつーか。 テストの成績が悲惨でさ」 「ウン。寝てても知ってるよ、それぐらい。 それで、どこを教えてほしいワケ?」 俺だって、頭が良い訳じゃない。 俺だって、成績が良い方じゃない。 平均点より、少し上ってだけ。 けど、ナギよりは悪くない。 ナギは、もう本当。 悪い。 「毎度、悪いな、瑠尹」 「…別に。いつものことだし」
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