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「てっ、てっ……てえへんだっ!」
ざんばら髪を振り乱し、息を切らしながら瓢吉が小屋へ駆け込んだ。
勢い余って瓢吉は桶に足を突っこみ、ばたーんと倒れ込んだ。
「うえっ! あいたたたたたっ!」
「なんだ! やかましい! どうした? 何やってんだ、てめえは! 昼日中から脅かすんじゃねえやい!」
居眠りをしていた兄貴分の田五作が立ち上がった。ひしゃげた蛙のような顔つきは一度見たら忘れられないほどの面白味がある。
「あ……あにきっ! てえへんなんで! この前、山道を塞いで、からかった女連れの侍。あん時の侍が、こっちへ向かって来やす」
瓢吉は起き上がって喚くように話した。
「なにいっ! 一人でか?」
「へい。そうでがんす。あん時に、お頭が脅して巻き上げた脇差し。あれを貰いに行くから案内しろと」
瓢吉は水瓶に近づき柄杓で水を呑んだ。
「うわっぷ、うわっぷ、うわっぷ……」
「なんだ、その品のねえ飲み方は! まちっと人間らしい飲み方が出来ねえのかっ、てめえは! だから、てめえは馬鹿にされるんだ」
田吾作は蛙のような口で、そう言い、瓢吉をねめつけた。
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