16人が本棚に入れています
本棚に追加
引き戸の外に荷車があった。
がこんっ! ばきんっ!
がらがらがらがら……
「うわあっ!」
瓢吉は荷車にぶつかり、ふっ飛んで雑草の上を転がった。
「あいてててててっ!」
そこへ、毛皮をまとった男がぬっと立った。煙管をくわえている。
「瓢吉! 相変わらず、おめえは瓢箪顔だな」
「あっ! お頭っ! てえへんでがんす! 早く逃げておくんなせえっ!」
瓢吉は腰をさすりながら起き上がった。
「出し抜けになんだ! 何事だ ! 」
鬼熊が呆れながら煙を吐いた。
「実は……かくかくしかじかで……」
「なにいっ? 一人で乗り込んでくるだとお? あの腰抜けがか?」
鬼熊は、かつんと煙管を縁台に当てて灰殻を落とした。張り出した額のせいで眼がくぼんで見える。
「いや、お頭。あんときゃ、あの侍は女連れだったからおとなしくしただけで。あっしは見たんだ。ありゃあ相当、腕が立ちますぜ。逃げておくんなせえ!」
「馬鹿こくでねえ! わしを誰だと思ってる? ああん? 泣く子も黙る鬼熊だ。侍なんぞに、いちいち、たまげてられるか! おもしれえ。相手してやろうじゃねえか」
鬼熊は傲岸と言い放った。
最初のコメントを投稿しよう!