カレシテスト

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 翠の無茶な特訓は肉体派の男ならば付き合ってこれたが、デートテストとなると、難しい。なんせ翠と一日中一緒にいる上、本来ならば女の子と楽しみたいデートコースを男二人で回るのだ。テンションは下っていくばかりだろう。  待ち合わせ場所に時間きっかりに現れた大一は、仁王立ちしている翠を発見して、内心舌打ちした。この兄貴なら、約束の1時間前に待っていてもおかしくない。  案の定、現れて早々、罵声を浴びせられた。 「馬鹿者っ!!!貴様、空を待たせる気か!空の彼氏ならば、約束の時間の3時間前に来ておけっ!!!」 「そんな早く来たって意味無いっしょ!」 「意味なんぞ、いらん!!!空とデートする一大イベントに対しての心構えが出来ているかどうかの問題だ」 支離滅裂な理論ではあるが、一理ある。と思ってしまうぐらいには、大一も翠に感化されつつあった。 大一は翠の容姿を見て、眉をひそめた。 「なんスか、その格好」 翠はジャージで来ていた。背中には小さなリュックを背負っている。短期合宿のような装いだ。 「デートテストでジャージっておかしくないスか?」 同行するのは恥ずかしい旨をオブラートに包んでの発言だったが、返って来たのは期待外れの答えだった。 「俺はテストの現場監督だからな。ふさわしい格好をしたまでだ」 「単に服持ってないだけっしょ」 「生意気な口を利くな!!!!」 振り回された拳を避け、大一は翠から数歩距離をあける。 翠は大一の格好をじろじろ眺めた。 「・・・貴様は軽薄な格好だな」 「普通スよ」 大一はおしゃれなアニマルプリントのTシャツにスポーツメーカーのパーカーを羽織り、シンプルな藍色のジーンズのズボンを穿いている。ズボンはチェーンがついていた。翠がチェーンを引っ張ると、ポケットから財布が出てきた。早速中身をチェックする。 「ちょっと、お兄さん!」 「お兄さんと呼ぶなと言ってるだろーが!所持金を確認するのは兄の務めだ」 大一は抗議の権利を放棄し、翠の好きにさせた。兄は財布の中を確認した後、静かに大一に財布を返した。 そして、スススと前に進んで立ち止まると、自分の財布の中身をこっそり確かめる。なんだかその背中が悲しそうなので、大一は声をかけた。 「今日は空ちゃんとデートするつもりで持ってきましたから。俺のおごりでいいッスよ」 「駄目だ!空とのデートを想定しているとは言え、空の恋人候補なんぞに施しは受けん」
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