カレシテスト

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変なプライドを持っている翠に、強く推したりはせず、大一は彼に従った。余計な反論は時間の無駄だと、ここ数日で既に把握している。  のっしのっしと歩き出した翠を追いかけ、大一は一歩前に出た。翠がそれを咎める。 「下がってろ」 「空ちゃんとのデートを想定してるんでしょ。女の子を先に歩かせるなんて、男の風上にも置けないスよ」 グゥと翠は唸った。 「不愉快だ。並べ」 言われるがままに大一が翠の横に並ぶと、ちょうど手の届きやすい位置に翠の手があった。念の為、大一はお伺いを立てる。 「手繋いでいいスか?」 「初デートでそれは早すぎる!!!!」 分かりきった答えに大一は安堵した。これで手を握れと言われたら、拷問だ。  そして、二人は遊園地にやってきた。男二人で遊園地という、非常に寒い事を立案した翠を内心で恨みつつ、ここは我慢だと大一は自分に言い聞かす。このクソ兄貴を降した暁には、天使のように可愛らしい空との夢の日々が待っているのだ。 「ここのジェットコースターは日本一の高さがウリなんスよ。お兄さんは派手な乗り物は苦手スか?」 「お兄さんじゃない!・・・・まぁ、空は絶叫系が好きだから付き合いで何度か乗ったが・・・・その・・・・」 段々翠の表情が曇ってくる。あまり良い思い出ではないようだ。  大一はジェットコースターと翠を見比べた後、園内地図の中央の空中ブランコを指差した。 「派手なのが苦手なら、軽?く空中ブランコに乗りましょう」 「誰も苦手なんぞ言っておらん!!日本一なら相手に不足無しだ!」 戦地に赴く勢いで怒号を上げる翠の手を、大一は強引に掴んで引っ張り、スタスタ歩き出す。 「おいっ!」 よろめきながら文句を言おうと口を開いた翠に、大一が穏やかに返した。 「俺もどっちかっつーと、苦手なんスよ。だから、ちょっと安心した」 柔らかな笑顔を向けられ、翠は顔を顰める。 この男は女を口説き慣れている・・・、ふとそう思った。 油断ならないと考えながらも、翠は掴まれた手を振り解くタイミングを完全に失ってしまったのだった。  手を引かれて連れてこられた空中ブランコで、翠はぐるぐる回されて吐きそうになる。以前、空に付き合って絶叫系を乗り倒した翌日は学校を欠席したぐらいだ。その為、皆勤賞がパァになった嫌な記録が付きまとう。
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