カレシテスト

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 ふらふらになった翠を介抱し、大一は空いているベンチを見つけて彼を座らせた。吐き気がするのか、口元を押さえている。 「・・・こんだけダメなら、最初に言って下さいよ。そしたら、遊園地なんて連れてこなかったんスよ」 「・・・うるさい・・・・」 大一はスッとハンカチを取り出して、翠に渡した。突っぱねようとしたその手を先に大一が握り、手のひらにハンカチを置いて翠に握らせる。渋々受け取った翠は、ハンカチを口元に宛がった。青くなった顔を俯け、翠は深く息を吐く。 「・・空は遊園地が好きなんだ」 「ふぅん」 小さな子供連れの家族が小型ジェットコースターの列に並んでいる。二人の子供は始終そわそわして、両親に何度も注意されているが、聞いちゃいない。 走り回っている小学生達。グループで遊びに来ている中学生。初々しい高校生カップル。遊園地には不釣合いなミニスカートに高いピンヒールを履いて、髪を逆立て、派手なメイクをした女性を連れているサラリーマン風の男。 様々な人々がいる。 「俺も好きスよ。乗り物に乗らなくっても、この雰囲気がなんか良いスよね。お祭りって感じで」 翠はハッとした顔を大一に向けた。的に当てられた、そんな表現がぴったりの表情で、大一も一瞬間を空けて翠と顔を合わせた。 「・・・お兄さんも一緒スか」 カッと翠の顔が赤くなった。 「お兄さんと呼ぶんじゃない!」 そう叫んで翠は大一のハンカチで思いっきり鼻をかむと、ぽいとハンカチを大一に放り投げてバッと立ち上がる。大一が抗議の声を上げるのも聞かず、ずんずん歩き出す。 「ちょっと!何処行くんスか?!」 「俺は乗り物に乗る!その為に来たんだからな!!!貴様も腑抜けた事を言っとらんと、空が好きなら絶叫系も乗れるようにしておけ!」 この調子なら無理してジェットコースターに乗りそうな翠に、大一は素早く追いかけていき、説得する。たかだか空中ブランコで青くなっているのだから、レベルを上げていけば行き着く先は見えている。救護室だ。 「日本一に乗るぞ!」 「乗らなくていいスよ!他にもいっぱいマシンはあるっしょ!!!」 「ダメだ!これは空とのデートを想定してるんだぞ!」 「デートなら尚更二人で楽しめない事しても意味ないでしょう!!!!せめて一緒に乗れるものにしましょうよ!!!」 後ろから翠を羽交い絞めにして、大一は翠を引っ張っていく。翠も抗うが、大一の力の方が強かった。
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