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ずるずる引き摺っていかれ、翠が連れてこられた場所はゴーカート乗り場だった。
「・・・・・・・・・・・」
「これも十分迫力あるでしょ」
これなら翠も怖くない。ゴーカートは子供の頃から得意な方だ。大一の気遣いはプラスに働いている。それを認めるのは気に食わないが、意地を張ってジェットコースターに乗るのはやはり嫌だ。
「運転手は俺だ!」
「任せます♪」
揚々と前を行く翠の横に大一は並んで歩き出す。
翠がヘルメットを被ってハンドルを握るや否や、突然加速し、大一は慌ててカートの縁に掴まった。
「うは。本気スか」
「ゴーカートに遊びなんぞ無い!」
自分で自由に動かせる乗り物には強いのか、大一を乗せた翠はどんどん加速させ、先行のカートを追い抜いていく。
もたもたしているカップルカートをコーナーで強引にインに入って抜き去り、大一は足を上げて笑い転げる。
「うまい!」
「まだまだ、ここからだ!!!!」
S字が続く道を、のろのろ運転しているファミリーカートの合間を縫って翠のカートは突き進んでいく。大一は陽気にF1のテーマを歌いだした。
やがてゴールが見えてきた。翠を見れば、まだまだ乗り足らない様子だ。
「もう一周、行きましょう!」
大一が係員に手で合図を送る。
係員が判断に迷っている間に、二人はゴールフラッグを過ぎていった。
10週目に突入する直前に係員からアナウンスで止められ、二人はゴーカート場を追い出された。空中ブランコでヒィヒィ言っていた翠はと言えば、実に爽快な笑顔だ。大一はその横でゲラゲラ笑っている。
「係員、そうとうキレてましたね」
「フン。今日はたまたまアタリの客を引いただけだ」
自分でも非常識だった自覚はあるらしい。そう分かると、大一はますますおかしかった。ジェットコースターに乗るよりよっぽどスリリングで面白い。
「お兄さんの性格から考えて・・・次はコーヒーカップですね!」
「うむ」
深く翠は頷いてから、少し間を置いて、付け加えた。
「・・・・・・・お兄さんと呼ぶな」
執拗なまでに強調する翠に大一もその呼び名を改めようとはしなかった。こうやってムキになって返してくる翠が律儀で、面白い。
二人はコーヒーカップでもゴーカートと同じくひたすら回り続けて係員や周囲の客から顰蹙を買い、操縦型の乗り物はもう乗らないようにきつく注意される。
学校名まで聞かれそうになり、二人は慌てて逃げ出したのだった。
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