カレシテスト

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「・・・それは・・・もちろん・・・・」 自分以外の人間からそんな話をされるのはあまり無く、翠はうまく返せない。躊躇っていると、大一が手を出した。伸びた手の意味ぐらい、翠も分かる。 「貴様・・・もしや俺に挑戦しているのか?」 その心算が無いわけじゃない。同じく、その心算だけでもない。 翠の話を聞いていると、翠と過ごしていると、彼が吉敷や他の面々に好かれている理由が分かる。空も彼を煙たがらないのは、これまでの軌跡で翠から豊かに愛情を受けたからだろう。多少度は過ぎるが、妹思いの楽しい先輩だ。 だが、そんな気持ちをこの単細胞の兄に説明した所で理解出来るとは大一も思わなかった。 敵と認識されているのだからこちらの好意は通用しない。 「この手を、お兄さんが受けたらね」 「お兄さんと呼ぶな!!」 大一の手を力いっぱい翠は握り返したのだった。  ガタイのいい男二人がメリーゴーランドに乗っている図は滑稽だったろう。  メリーゴーランドまで乗ってしまえば、観覧車なんぞ恐るるに足らず。数十のゴンドラをぶら下げた円形の巨大鉄塔を見上げ、二人は意気込む。 さっきのメリーゴーランドで大一は通行人の驚いた表情や幼児に付き添った保護者からの警戒心を露にした視線を浴び続けた。翠もだ。ぐるぐる愉快に回る木馬も馬車も、忍耐力を試す道具と成り果てた。  ここまできたらトコトンこの男を苦しめてやろうと翠がずんずん歩き出すと、大一が翠の体操服を掴んで引き止めた。 「待ってください」 「なんだ?!貴様、怖気づいたのか?!」 内心幻滅していると、大一が時計を確認する。既に時刻は正午を大きく回っていた。 「その前に飯にしませんか?ずっと遊び通しはよくないっしょ」 「休憩か。・・・・そうだな、空も腹が減ってるだろう」 時間を忘れてこの男と遊園地に没頭していたのかと、少々翠も冷静になる。大一が園内マップを取り出して、レストランを探し始めた。 「こういう施設内でうまい飯にあった例は無いんスけどね。園外出るのも面倒だし・・ 「ランチは店でなくていい。今日は弁当を用意してきた。この遊園地は持ち込み自由だったろう」 「えっ?!」 大一は素直に驚いた。 翠の背負っている小さなリュックの中身は、弁当だった。 「デートの昼飯は女子の弁当と相場が決まっている」
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