カレシテスト

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1  吉川翠は母と父の復縁により、長く離れて暮らしていた妹と共に暮らせるようになってから、ますますシスターコンプレックスが酷くなった。妹の空は学校ではモテるらしく、しょっちゅうラブレターをもらってくるし、貢物も多く、ストーカーも跡を絶たない。今時ラブレターなんぞ廃れている、もはや死語だと文句を言いながらも、翠は律儀に返事を返している。あとをつけてくる輩には、剣道二段の竹刀が容赦なく飛んでくる。 そんな兄を空は毛嫌ってはいなかった。やはり、離れていたせいか、兄と共に暮らせるのは嬉しいらしく、兄の部屋に入り浸っている。 「お兄ちゃんの学校、もうそこまでやってるんだ。うちの先輩、まだ恒等式のとこで躓いてるみたい」 「先輩って女か?」 翠は坊主な自分の頭を掻く。二つにくくった髪を軽く振り回し、空はウフフと楽しそうに笑って、オーバーに翠の腕を叩く。 「当たり前でしょ!部活の先輩。フルート奏者。彼氏募集中だって。紹介したげよっか?」 「いい。妹の紹介なんて、兄として示しがつかん」 何に拘っているのやら。 どうやら彼の中で理想の兄貴像と言うものがあるらしく、それにそぐわない場合は頑なに意見を曲げないのだから、それを承知の空は、強く勧めたりしなかった。  二人で一時間ほど勉強した後は、40型のテレビの前に立ち、ゲームのコントローラーを握ってバーチャルスポーツを楽しむ。画面に映るアバターは二人にそっくりだった。スコアは順調に伸び、日頃の成果が如実に出ている。  散々遊んだ後、そろそろ風呂に入れと空を部屋から追い出す。空が風呂に入ったのを見計らって、緑はそろりと妹の部屋に侵入した。  空の部屋はいかにも少女趣味な内装になっており、壁はレースで模様され、部屋の至る所にクマのぬいぐるみが置かれてある。このクマのぬいぐるみはデディと言う名のメーカーから出されたカラフルなぬいぐるみで、部屋に100近く並んでいるにも関わらず、どれ一つとして柄が被っていない。お手製のせいか、値段もはる。
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