カレシテスト

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 翠はぬいぐるみをぐるりと見回した。知らない柄のぬいぐるみは無いようだ。ほっと翠は安堵の息を漏らした。  これだけの量のぬいぐるみがあるのにはわけがある。ずっと母子家庭で一人寂しく家で留守番をしていた空に母はぬいぐるみの新作が出るたびに買い与えていた。その役目がいつの間にか空の歴代の彼氏の役目となった。兄はそれが気に入らない。新しいぬいぐるみがあれば、目ざとく見つけ、空に追求する。空はあっさり彼氏の存在を認め、直ちに翠による彼氏テストが行われる。  知力・腕力・度胸・忍耐力は勿論、その他諸々の空の為と銘打たれた無理難題が色々。どれほど空を愛しているのか、兄が見定めるのだ。これまで、合格者はいない。脱落した者に、空も一切同情したりせず、兄に反発せずに、素直に別れている辺り、おそらく空も重度のブラザーコンプレックスだった。  空の部屋から出ようとして、背後で音が鳴り、翠は振り返った。翠の学習机の前の窓から、若い男が一人、新しいクマのぬいぐるみを手に持ち、這出てきたところだった。彼は翠を見て、目を見開く。兄も目が点だ。  互いに見つめあい、時が止まったのは、ほんの一瞬。翠は素早く竹刀を構えて男向けて突き上げた。 「うわぁっ!!!どっから取り出したんスか!」 男は翠の突きをサッと避け、ベッドの上に転がり逃げる。ヘッドボードに並んでいたクマのぬいぐるみが辺りに散乱した。 避けられて余計に怒りが増した翠は、次の攻撃も容赦しなかった。 「夜這いにきたのか、ストーカー野郎!!!!!」 「違いますよ!俺は空の彼氏です!」 堂々とした宣言は火に油を注ぐ結果となった。翠は竹刀を振り回すと、男に剣先を突きつけた。男は怯む事無く、翠を見返している。 「まぁまぁ、お兄さん。落ち着いて」 「誰が貴様のお兄さんだ、ドアホ!俺はお前みたいな軽薄な優男が空の恋人なんぞ、認めんぞ」 空の彼氏だと主張する男は、容姿は某アイドル事務所に所属していてもおかしくない整った顔立ちとスタイルをしていて、髪は明るい茶色のセミロングだ。小生意気に、耳にピアスをあけている。不良だ、と翠は判断した。 「だったら、どうだって言うんスか?」 「・・・・・テストする」 「はぁ?マジで?」
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