3人が本棚に入れています
本棚に追加
男は呆れた口調で聞き返し、目の前に突き立てられた竹刀を握りこむ。握った男の腕は思ったより強く、引っ張るがなかなか離してもらえない。半ば本気で力を入れて、翠は男を壁に追い詰めた。これ以上力を加えれば、男の胸部は鋭い竹刀の突きで抉られるだろう。
多少の負傷は覚悟してもらわねばならない、なんせ妹の恋人だ。
そんな無体な理由で翠が力を入れた途端、体のバランスが崩れたのは翠の方だった。男が、掴んだ竹刀をそのまま翠の方へ強く押したのだ。後ろへひっくり返りそうになった翠に、男は竹刀を掴み直して翠を今度は引っ張って頭突きを喰らわせた。
ゴン!
「いってーーー!!!!」
倒れて呻いたのは、侵入者の男だった。翠は男の予想を上回って、頭の固い男だった。素早く立ち上がって、翠が男にトドメを刺そうとすれば、後ろから甲高い声が飛んできた。
「もー!!お兄ちゃんったら!また私の部屋に勝手に入って暴れてるの?!」
非難する声の調子は、本気で怒っているものではなかった。倒れている男の背に足を乗せた兄に空は詰め寄り、唇を尖らせる。
「勝手に入っちゃヤダっていつも言ってるじゃない」
「それは謝る。だが、コイツはなんだ?俺はこんな男は聞いてないぞ」
「言ってないから聞いてないのは当たり前でしょ。同じクラスの三池大一くん。私の恋人になりたいんだって。私と付き合いたかったら、新しいデディをちょうだいって今日の放課後話してた所だったの。まさか今晩持ってくるとは思わなかったけどね」
空はクスクス笑いながら説明してくれたが、黙って聞き過ごせない内容だ。
「夜中に非常識だ!こんな男はやめなさい」
「お兄さんこそ非常識スよ!妹の恋人にこんな仕打ち、普通しますか?!」
翠が空に厳しく言い付けていると、下から大一が反論する。話に割って入ったのも気に入らなければ、その自称はもっと気に食わない。翠は大一を更に強く踏みつけた。
「まだ恋人じゃない!俺のテストも受けんで空の恋人気取りとは片腹痛い!」
大一も気の強い男らしく、翠の発言にカチンときたのか、彼の足をグッと掴んで怒鳴り返した。
「ハッ!だったら、そのテストとやらを受けさせてもらいましょうか!俺がそれに合格した暁には・・・晴れて空さんとお付き合いさせて頂きますからね!!!!」
最初のコメントを投稿しよう!