カレシテスト

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翠の足を掴む手の力はドンドン強くなってくる。この男は多少は喧嘩慣れしていると翠は推測するが、ただ腕っ節が強いだけでは空の恋人にはなり得ない。 ただ、こうやって自分に歯向かってくるガッツは好印象だ。それだけ空を想っているのなら、テストを受ける資格ぐらいは与えてやろう。  押し返してくる大一に乗り上げるような形で更に力を加えると、翠は屈みこみ、大一を上から見下した。 「・・・そのセリフは俺のテストに合格してから言うんだな・・・・」 「望み通り、そうしてあげます」 ぎらぎら睨み合う二人の背後で、空は転がっていたクマのぬいぐるみを拾い上げる。宝石がふんだんにちりばめられた、空の持っていないデディの新作だった。 「またコレクションが増?えた♪」 デディをギュッと抱き締め、空は満足そうに笑ったのだった。 2  翠のテストは翌日から始まった。翠は朝5時に起き、早朝訓練に出かける。5kmのランニング、剣道場での打ち込み、腕立て・腹筋・スクワット等の基礎の体力作りも訓練の中に盛り込まれている。それが終われば帰り道をランニングしながら英単語帳を読む。  大一はその訓練に付き合わされた。5時に起きると聞いてなかった大一は遅れてやってきて、翠に罵声を浴びせられる。散々嫌味を言われたが、逐一それに言い返し、大一は翠の特訓コースをやってのけた。  始業時間になれば、翠は学校へ赴く。翠と空は学校が違うから、大一とも離れる事になるが、翠から宿題を課せられていた。中休みの時間に翠の学校まで来て、また自分の学校に戻ると言う、全く意図不明の宿題だ。中休みの時間はせいぜい30分程度。翠と空の学校は駅一つ分、距離がある。それを30分で往復しろと言うのも無茶なら、学業に影響を及ぼさぬように先生に見つからずに自らの学校を脱走し、翠の学校に侵入しろと言うのだ。確かに、見つかったら処罰を受けるのは免れない。  剣道部の部室で一人で昼食をとって休憩していた翠は、時計を見た。約束の時間を少し過ぎている。やはり無茶な宿題だったかと嘆息する反面、ほくそ笑む。授業をサボタージュせずに教師に見つからず抜け出して、こちらの学校に来るのは物理的に無理だ。更には、翠はこうやって剣道部の部室にいる。来れたとしても見つけるには時間がかかるだろう。どうやったって、この宿題は履行不可能だ。 ガラッ!
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