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「ハァッ・・・ハァ。なんで教室にいないんスか・・・・」
「貴様、どうやって・・・・?!」
勢いよく開いた扉から荒い呼吸の大一が現れて、翠はぎょっとした。大一はなんとか息を整えながら、一枚のカードを手に持って、見せ付ける。大一名義のクレジットカードだ。タクシーで来たらしい。
「ズルしたな!」
「タクシー使っちゃダメなんて聞いてまっせん」
フンと得意げに笑って言ってみせた大一に、翠はグヌヌと唸る。ちらりと時計を見て、大一は翠に問う。
「で?この宿題に何の意味があるんスか?それとも、単なる嫌がらせ?」
往復で一万円以上も使うんだから、それぐらい答えてもらわないと採算が合わないとほざく大一に、翠はあっさり吐露する。単なる嫌がらせをするような、小さい人間と思われたくないのもあった。妹の恋人にギャアギャア文句をつけるのは小さい人間ではないかと言えなくも無いが、それは置いておく。
「・・・・・もし、空がどうしても貴様が必要になった時、駆けつけてやれるか・・・・・それが知りたかった」
「・・・・・・・・ふぅん」
てっきり嫌がらせだと思っていた。朝の特訓もそうだ。だが、この重度のシスコンは本気で妹の為にテストをしている気構えなのだと、知れる。ならばこちらも本気でかかってやろうではないか。
「あと5分しかない。貴様、自分の学校に戻れるのか?くだらん質問している暇があったら、さっさと戻れ」
「あんたがここまで来いっつったんでしょ!」
文句を返しながら、大一は部室から飛び出して行った。去っていった後を見送り、翠は腕を組む。
なかなか骨のある奴だ。しかし、テストはまだまだこれからだ。
放課後、大一は翠を迎えに行き、一緒に帰るよう命令された。ここでの課題は、『尽きない話題』だ。いつでもいつまでも妹を楽しませられるか、それを試したいらしい。馬鹿馬鹿しい注文だが、翠は真剣だ。真剣な翠に何を話せばよいのやら。とりあえず自分の身の上話を展開すると、翠から横槍が飛んできた。
「つまらん。貴様の事なんぞ、知りたいとは思わん」
「そんなの言い出したら、終わっちゃうじゃないスか。恋人同士ってのは、互いの事を話して深く入り込んでいくもんでしょ!ちゃんと聞いてくださいよ」
「今は、貴様は近頃の流行の音楽だとか話題のスポットを話して、空を楽しませる役目だ。貴様の個人情報は後で俺が調べて空に流す」
「なんスか、それ!」
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