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「空はな、流行に敏感なんだ。新しいもの好きだからな。空が知らない情報を教えてやって、楽しませてやれ」
「でも、今話す相手はお兄さんでしょ」
「お兄さんと呼ぶな!」
ガンと大一は殴り飛ばされる。強い一発だったが、頑丈な大一はびくともしない。ギロリと翠を睨みつけ、顔を突きつける。若干、大一の方が背が低いが、なかなか凄むと迫力はある。押し殺した声で言い放った言葉は以下の通りだ。
「・・・先週発売された某韓国グループの新曲、知ってます?」
「知らん」
「これがいわくつきの新曲で、先に中国でPVが発表されたんだけど、そのPVの中に・・・・」
「PVの中に・・・・?」
「何があったと思うスか?」
「じらすな。さっさと言え」
「ところで話は変わるけど、今晩深夜放送のワールドダウンって番組で重大発表があるって。忘れず、見て下さいね」
「おい、PVはどうした?」
「その重大発表ってのがマジでビックリする内容スよ。もう、お笑い界がめちゃくちゃになっちゃうのは間違いない」
「PVは?」
「実は俺、その内容を既に知っちゃってんスけど・・・教えてほしいスか?」
「教えろ」
「それで、そのPVが流れた途端、中国で大騒ぎになって・・・。俺はこのニュース、全部ネットで知ったんスけど・・・・」
「待て、重大発表の内容は何だ?!」
「あ、そうだ。来月オープンの駅前のレストラン、オープン前招待券持ってるんスよ。メニューはもう決まってるんスけど、タダで食べれますよ」
「メニューは?!」
「で、重大発表の内容なんですけど??」
馬鹿な会話が続く。こんなのが尽きない話題なのかと、逆に翠がへばる。そもそも、翠は流行に疎い。雑学王レベルの知識を持つ大一に振り回され、途中で音を上げた。
「もういい。そんな新人アナの自慢にもならん利きプリンの種類なんぞ、教えてくれんで結構」
「でも、絶品スよ。あのアナって、普段はスイーツハンターを自称してっし。甘いもの、嫌いスか?」
「嫌いじゃないが・・・」
「へぇ。意外!」
「・・・空が甘いものが好きだったからな。離れて暮らしてた頃は、甘いものを食べさせてやりたくて、色々店に連れてってやったもんだ」
しみじみ語る翠は遠い目をして、過去を懐かしんでいる。今みたいに同じ屋根の下に暮らせるようになって、彼がどれだけ喜んでいるか、話し振りから伝わってくる。
「どんな店行ったんスか?興味あるス」
「俺に話させる気か?」
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