カレシテスト

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ジロリと大一を見やれば、彼はフッと不敵に笑ってみせた。 「話を聞くのも彼氏の務め、でしょ?お兄さんのつまんない話は覚悟の上スよ」 「だから、お兄さんと呼ぶな!!!!!!」 怒鳴られても、もう大一は堪えないのは翠も分かっていた。むしろ、翠の反応を楽しんでいるようだった。  家まで送ってもらうと、翠はシッシと大一を追っ払う。家に上げてもらえると期待していた大一は不満を口にする。 「いいじゃないスか。茶の一杯ぐらい」 「愚か者。家に上げるのは、結納の時だ」 「俺ら、高校生スけど・・・・気が早くありません?」 現役高校生の大一には結婚問題など、遠い遠い未来の話に聞こえる。だが、翠に言わせれば『お付き合い=結婚を前提』がデフォルトになっている。軽い遊び感覚で空と付き合うつもりかと、翠は毛を逆立てる。 「結婚する気もないなら、二度と顔を見せるな」 「極端なんスよ、あんたは!付き合ってからでないと、結婚したいかどうかなんて分からないじゃないスか!」 正論ではあるが、翠の耳には念仏だ。何処からか竹刀を取り出し、大一の前に突きつける。 「空と関わりたいのであれば、最初から全力で来い」 バン! 扉は無情にも閉じられた。  この兄貴には理屈や常識、限度と言うものは通用しない。彼が最後に言い放った言葉通り、死ぬ気でかからないと空の恋人の座は勝ち取れそうにないと大一は悟る。彼もまた、熱い男だ。一度火がついたら、収まりを知らない。 「このクソ兄貴!!!今に思い知らせてやらぁ!!!!!」 窓際から腕を組んで、翠は玄関で吼えている男を見下ろしていた。周りには沢山のクマのぬいぐるみがある。ガチャリと扉が開いて、空が入ってきた。 「また私の部屋に勝手に入って・・・」 「空。外で叫んでいる変質者がいる。通報しなさい」 「・・・・そこまでする?」 呆れている空の右手には既に受話器が握り締められていた。 3  翠は大一の身辺調査を開始した。身辺調査と言っても、業者を雇うような大仰なものではなく、空と同じ学校に籍を置く剣道部の親友と連絡を取ったのだ。 翠と同じ剣道部部長の吉敷千尋は部内だけに留まらない、情報通だ。大一の事も詳しく知っていた。
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