カレシテスト

9/34
前へ
/34ページ
次へ
成績優秀、スポーツ万能、教師の受けもよく、友達も多く、女子にも人気がある。後輩からも慕われていて、剣道・柔道・空手道と武道に長け、練習試合には必ず狩り出されている。本人は何故かクッキング部に所属している。 家柄も悪くなく、父親は国際弁護士、母親は赤十字社の支部長、祖父は元議員で退職してからは悠々自適の生活を送っているらしい。  翠は千尋が持ってきた資料を引きちぎった。翠の過度のリアクションは想定の範囲内であった為、千尋は紙切れになってしまった資料を前に、悠然とサンデーを食べる。 「非の打ち所がないではないか!!!」 「そ。今度ばかりは相手が悪い。うちも随分、三池には世話になったからなぁ」 大一に試合に出てもらうのはさすがに剣道部部長としてはプライドが許さなかったが、部員の特訓につき合わせたり、他校との練習試合には度々助っ人に頼んだものだ。 「あの男の欠点や悪い風聞は知らんのか?!以前の交際相手は?奴を悪く言う奴は?」 「悪い噂は一切無いね。女友達は多いようだけど、交際経験は無かったみたい。告白は沢山されてるだろうけど。あいつを悪く言う奴は俺が知ってる限りじゃ一人だけ」 「誰だ?!」 翠は食いついた。 千尋は前を指差す。 翠はバッと背後を振り返った。 「・・・・・・・・お前だっつの」 「クソッタレ!」 癇癪玉を破裂させた翠はテーブルに広げられた紙切れを手で凪ぎ捨てると、レシートをひったくって席を立った。レシートを忘れない辺り、律儀な男だ。 テーブルの上には、手のつけられていない抹茶パフェが残っている。ここフルーツパーラー『ジュエル』は二人の学校の間にあり、閑静な住宅街に紛れて営業している、密かに人気のある喫茶店だ。 翠も千尋もお気に入りのこの店で、彼は食べ残した事など一度もない。 千尋は翠が残していった抹茶パフェを頬張りつつ、小さく嘆息した。 あのアンリミテッドなシスコンさえなければ、理想の親友であるのに。 4  大一は翠の特訓に毎朝必ず現れて、付き合った。学校にいる間に呼び出す宿題はさすがに撤回したものの、放課後は翠を迎えに来るのは続いている。  根を上げない大一に、翠のテストは第二段階を迎えた。  デートだ。 空が気に入るデートコースを大一が考えて実行すると言う、極めて簡潔なお題目であったが、実践するのは翠相手だから、寒い事この上ない。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加