表:上

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男の目の前には、地面を這うように背を向け、その男から必死で逃げようとしている者の姿があった。 その姿はまだ少女の面影を残し、体中に男から受けたであろう刀傷が見受けられる。 少女は男から少しでも逃れようと手と腕を掻き、顔中は血と涙で汚れ、恐怖と絶望に表情を歪めながら重い身体を引きずっていた。 しかしその少女の姿は人間のものではなく、上半身は人間ではあったが下半身は蛇という、半人半蛇の魔物であった。 力無く男の前から逃れようとするその魔物を、憎悪を浮かべて見下ろす男が剣を振りかぶる。 そして僅かな逡巡も無く、短い呪詛とともに無情にもその無防備な背に剣を突き刺し、心臓を貫いた。 さらに前へと伸ばされた少女の手が地面に落ちる。 少女の表情はもがき苦しんだものではなく、どこか悲しさを秘めたものが浮かんでいる。 そしてそれを見下ろす男の目にも、また違う悲しみが浮かんでいた。 男の凶行の理由は数年前に遡る。
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