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男の名はライエ。
無所属の傭兵で、普段は酒場の掲示板に貼り出された依頼、主に魔物の討伐や行商人の護衛などで生計を立てて暮らしていた。
その日も、ライエは行商人の護衛の仕事を終わらせ、普段過ごしているハイネへの帰路の途中だった。
ハイネの町並がやがて見えてくる頃、道中にある湖に差し掛かったときのこと。
(……?なんだ、あれは……?)
湖の畔でなにやら蠢くものが目に映った。
(魔物!?)
少し離れた場所で蠢いているものは紛れもなく魔物であり、その姿は大きな蛇のようであった。
幸いまだ気付かれた様子はなく、気配を押し殺しながら腰の剣を構え、徐々に距離を縮める。
その姿がはっきりと目視できる距離まで近づくと魔物の全容も明らかとなる。
上半身は人間の女性の姿を持ち、腰から下は蒼い鱗に覆われた蛇の身体を持つ魔物、ラミアと呼ばれる種族であった。
ライエは付近の大木の物陰に身を潜めラミアを観察した。
魔物討伐の経験もあるライエだったが、剣を握る手には汗が滲む。
深く深呼吸したライエは大木の陰から顔を覗かせ、ラミアの動向をさらに観察する。
その目に飛び込んできたのは、ラミアの前に力なく横たわる一人の女性の姿であり、ラミアは今まさにその女性に手をかけるようであった。
「その人から離れろおぉ!!」
状況を把握したライエは剣を握り直し、素早く身を現してラミアへと躍りかかった。
ライエに気付いたラミアは横たわる女性から手を離し、襲い来るライエへと振り返る。
突然の襲撃にやや驚愕した表情を浮かべたラミアであったが、素早く身を引いてライエからの奇襲の一撃を避けた。
ラミアからの反撃に備えて剣を構え直すライエ。
反撃に転じるであろうと予測していたが、ラミアはしばし鋭い視線でライエを睨み、続いて横たわる女性へ一瞬視線を移したのち、身を翻して湖の中へその身を投じた。
そして身を躍らせるように湖を泳ぎ、やがてその姿を消したのだった。
ラミアの姿が完全に消えたことを確認してもなお周囲への警戒を緩めることなく、ライエは倒れている女性へ近づく。
「……おい、大丈夫か?…おい!」
女性に声をかけるも目を開ける気配がない。
息はあるようなので、気を失っているだけのようだ。
見たところ大きな怪我や出血もない。
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