第1章

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 ほうほう。お客さんは鵺をご存知か。ヌエじゃ。 今でもいうな。「永田町には鵺が棲む。」と。 住むではないぞ。棲むというのだから見つからぬ。  左様、鵺は誰もが知る通り。日本中が知る通り。 通りは通用に通じ。知ったかぶりが騙されなさる。 判らぬ故に鵺とする。本質亡きこそ鵺の骨なしな。  頭が猿で去ると云う。体は虎で盗らと云うけど。 尻尾は蛇で、じゃと終る。言葉の〆じゃ。駄洒落。  はて客人は頼政殿が弓で射抜き、猪早太が太刀で 討ちては海へ流したル、伝承ゆえなら獅子王とすか。  違い見間違えど。猿が南西、虎が北東、蛇が南東。 残す隙は北西の戌亥。討つ獅子、猪早太となるもが、 その実、頼政から預かりし短刀「骨食」ともいう。  ともあれ?めず解らず肉骨あらず。鵺の体は隅々、 国中、はては那須野の九尾の狐が殺生石かと。奇也。 飛ぶ飛ぶ。どこへも散るが故、京の都に納まる事も。  愛知、広島、三重、岐阜、兵庫。津々浦々に火と、 燃え消える。しかし今宵は。静岡の鵺に御座います。  序唄の通りに、鵺なる妖怪は仔細は広く伝われど。 その奇怪な妖の頭に当たる正体が、飛んで落ちたが。 浜松の北に御座います。今も「鵺代」と名が残りて。  又、尾の蛇も浜名湖に「尾奈」と呼ばれて駅名に。 羽の落ちたる地名は「羽平」胴は「胴崎」とも謂う。  全ては富士の足元へ落ちて祀られる鵺の末路と也。  不死たる山の伊豆見下ろせば、浅間大社の声染る。 砕け戻れよ古奈あやめ。鵺はお主の愛しきモノノケ。  故に誰にも捕まらぬ。故に誰もが見届けぬ。さて。 繋げば斑、砕いて直す。眉目秀麗、儚き憂き世。よ。  花に嵐の例えもあるじゃに。仰げど富士よ何物ぞ。 辛き教えを、別れに浮かべ。島よ、島よと渡りける。
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