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プシューと軽く息を吐くような音がして扉が開いた。
「健吾、おはよう!」JKの明るい声が真っ白い廊下の壁を反復し、複数のこだまとなって聞こえる。
「ああ。おはよう」眉をしかめながら不機嫌そうにボソッと答える自分にちょっと驚く。
JKの前でいつも不機嫌そうな態度をとってしまうが、実際は逆だ。
「起きたばかりって体の節々が痛くない?」不機嫌そうな健吾の様子を気に留めるでもなくJKはいつものように屈伸運動を始めた。肘に、にぎり拳を当てて肩の関節を伸ばしている。
「俺は腹減った。早く食堂行こうぜ」廊下を行き来する小さなB-123型ロボットを避けながら健吾はJKを振り返る。
上体反らしをしていたJKのふくらみ始めた胸に一瞬ドキリとし、慌てて目を逸らす。
「先行ってるぞ!」健吾は踵を返すと食堂に向かった。
「あ、待ってよ」 食堂は約1000mほど先にある。後ろからタッタッと軽い足音がして、JKが健吾に並んだ。肩をゴツゴツと当ててくる。
「なんだよ」
「何食べようかなあ」と健吾の問いには答えず独り言ちている。JKのこの言い方は旧世界の名残だ。
今では食事の選択肢は二つだ。ニュートリションAかB。その人に合わせた必要カロリー量も計算し提供してくれる。テーラーメードミールだ。
旧世界では食材が豊富にあり、食事メニューが何百種類と存在していたらしい。その中から自由に選ぶことができた。信じがたい話だ。必要な栄養さえ取れればいいのに、なぜ何百種類もの食事メニューを選ぶ必要があるのだろう。
健吾も旧世界の言い方を真似してみた。
「食べ過ぎ注意報……」とつぶやく。
「え?何か言った?」
「いや。何も……」
廊下は大人3人が両手を拡げてやっと届くほどで子供の健吾には十分に広い。健吾達の脇をちょろちょろとB-123型ロボットが走り回っている。彼らはMog●●a叩きロボットだ。いざという時に重要な働きをする。
最も普段は雑用係で、掃除をしたり蛍光灯を取り替えたり忙しく走り回っている。
いつも思うのだが、廊下の左右にずらっと並ぶ物言わぬ扉たちが不気味で怖い。いきなり扉がプシューッと開いてMo●●raが出てきそうだ。扉の中は個人の部屋で住人がいる。といっても、コールドスリープで眠らされているので、様々なチューブにつながったカプセルが鎮座しているだけだ。
健吾もJKも定められた起床時間に睡眠が解け、こうしてカプセルから這い出て廊下を歩いている。
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