第1章

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「なぁ。俺たちってなんでいつも一緒なんだろう」 「なんで……さあ?友達だからじゃない?」 「みんな起床時間がバラバラなのに。俺と君だけがいつも一緒の時間に起きるように仕掛けられている。変じゃない?」 「ほら、でもお兄さんが言ってたじゃない。私たち2人は特別な遺伝子かもしれないって。素数時間がどうのこうのって。素数ゼミだっけ?なんかそんな説明していたわ」 そうだった。3回前の起床時間中に会ったお兄さんからいろいろな事を教わった。 僕ら全ての人は皆、素数日間眠らされているらしい。不思議なことだ。 例えば5日間とか7日間とか… この5日間眠らされた人と7日間眠らされた人が次に会えるのは最小公倍数の5×7で35日後となる。これは例えば4日間眠らされた人と8日間眠らされた人の最小公倍数の8日後と比べて圧倒的に長い。 「ああ。あのお兄さんね。今日も食堂にいるかな?」 「お兄さんの睡眠日数は3日って言ってたから、多分、会えるはずよ」 「あのお兄さん、名前なんていったっけ?」確か、名前を聞いたような記憶がある。 「ええっとー……なんか難しい名前だった」 「覚えとけよ」会った時になんて呼びかけていいのかわからない。 回し蹴りが飛んできた。 「イタッ!」容赦のない回し蹴りが尻にヒットした。 「あんたもね!」 僕らの睡眠日数は4桁で、絶体時間で20年以上眠っていることになる。もっとも僕らの感覚では20年も眠っているという実感はなくて、つい昨日寝て起きたような気持ちなのだ。 お兄さんの睡眠日数が3日。という事は僕らが眠っている20年の間、お兄さんは3日に1日起きていたことになる。つまり、お兄さんの相対時間では20年間の内の3分の1の時間、約7年ほどが流れたことになる。 JKと2人肩を並べ歩いているとおかしな錯覚にとらわれる。何だか、ずっとこうして歩いていたような気がするし、このままどこまでも歩いていくような気がする。廊下はどこまでもどこまでも伸びている。旧世界では地平線というものがあったらしいが、ここでは地平点だ 。
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