第1章

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3年前の9月。 母親に連れられて足を運んだ地元の高校の文化祭。 1階席は生徒達で埋め尽くされ、事ある毎に拍手や指笛が鳴り響く。 文化部の発表では歓声や手拍子や笑い声が飛び交っていた。 …あの15分を除いては。 ―8月 県民文化ホール 合唱コンクール県予選― 「そろそろ第一待機だって。行くよー」 「えっ あぁはい!」 高校一年、人生初のコンクール。 リハーサル室で5分間の声出しと最終確認を終え、楽屋前廊下に待機する。 自分達の2つ前の学校の演奏がスピーカーと袖口両方から聞こえてくる。 もう少し時間があるな…そう思い再び過去を思い返すことにした。 あの日は文化祭で学校のすぐそばにある市立の文化ホールだった。市立とはいえ新しくて綺麗なホールで、話によると日本の名館100選なのだそうだ。 ―次は音楽部の発表です。 ステージに出てきたのはたったの8人だった。 幼い頃から地元の合唱団に所属していろんな合唱団と交流してきたつもりだが、どこも20人以上は団員がいて、多いところは200人近いところもあった。 8人で何をするのだろう。楽器の演奏でもするのだろうか。しかし8人のうち4人が音取り用のトーンチャイムをもっているだけだった。 その演奏はとてつもないものだった。 地元の児童合唱ではまず触れることのないアカペラ宗教曲。 8人がひな壇に半円形に並び、紡ぎだされた音はとてもその人数とは思えない響きを持っていた。圧倒的な迫力と安定感でホール全体を包み込んだその音は、九州大会への切符を手にしていた。 音楽部の発表の約15分間、ホールは音楽部の声だけが響き、ほんの少しの静寂の後割るような喝采に満たされた。 「さぁ、第二待機行くよ!」 気付けば2つ前の演奏が終わり、いよいよ出番が近付いてきていた。 楽屋前からステージ袖に移動する。 「皆、手繋いで」 部員全員に指揮者である先生を加えた11人で手を繋ぎ円になる。 右手をギュッと握られる。 左手をギュッと握って隣へと伝えていく。 一周して戻ってきた力を確認した先生が無言で頷く。 (頑張ろう!) 口パクの掛け声に「おー!!!」と囁き声で応じる。 各々ストレッチや深呼吸をして出番を待つ。 ひとつ前の演奏が終わった。 カチャン、とストッパーの外される小さな音がしてステージ横の扉が開けられる。 さぁ、いよいよだ。 気が向けば続く
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