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「そろそろ行こうか」
私がブランコから降りながら言うと、薫は笑顔で頷いて立ち上がった。
ベンチの上に置いてある荷物を取りに行こうと、二、三歩前に進んだ時、視界がぼんやりと歪むような感覚に襲われた。
最初は立ち眩みなのだろうと、大して気にも留めていなかったのだけれど、歪みがさらに酷くなっていく。
「な、なに!?」
隣から薫の不安そうな声が聞こえてきた。
どうやら、薫自身も同じ現象に襲われているようだ。
立ち眩みじゃない。なら、これは……何?
見つけた……
薫じゃない別の誰かの声が聞こえてきた。
公園には誰も居なかったはずなのに、声だけが頭の中に響いてくる。
「誰?」
不安と恐怖が一気に押し寄せてきて、薫と二人で手を握り寄りそって恐怖を紛らわせようとするのだけれど、歪みはいっそう酷くなるばかりで歩くことすらままならなかった。
世界が回る。
自分の足が地面に付いているかすらも分からなくなる。
次の瞬間、目の前に黒い空間が出現した。
私は息を呑む。
この先には行ってはならないと、直感がそう告げた。
逃げよう。
そう薫に言おうとした瞬間、黒い空間から二本の黒い手が伸びてきた。
その手は、私の腕と、薫の腕をしっかりと掴み、すごい力で空間の中へ引きずり込んだ。
そこから、私の意識は途絶えたのだった。
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