女優

11/14
前へ
/14ページ
次へ
「さあさあ、今日は何にしましょう?」 百合さんがやたら長い睫毛を閉じてウインクする。 唇にひかれた発色の良い口紅が、ぷっくりとした色艶を演出している。 イコはメニューではなく、カウンターの後ろに所狭しと並べられた酒瓶を眺めて、それからグラスを吹きながら彼女たちを見守るバーテンダーを見た。 「んーマティーニを」 「じゃあ私も同じものを」 あまりお酒にこだわらないサキコは、いつもそうするのだった。 「一杯目はアタシがご馳走しちゃう!ケン、お願い」 バーテンダーのケンは会釈をすると、早速グラスを置き、作業に取り掛かった。 「そうそう、今日はちょっとしたショーもあるから見て行って頂戴な」 なるほど、それで本日はいつにも増して客の入りが良い。 フロアに並べられた八つの丸テーブルは全て埋まっているし、壁際からステージに向かって伸びている十人ほどが掛けられるカウンター席も、ほぼ埋まっていた。 百合さんはまたもウインクをすると、カウンター奥のスタッフルームに消えた。 「どうぞ」 時代に似つかわない七三分けのバーテンダーケンは、二人の前にグラスを置いた。 色男であるのに残念な髪型の男は二人に微笑む。 「ケンさんありがとう」 小さくグラスを合わせると、二回目の晩酌が始まる。 「イコはどうしたいの?これから」 サキコは火照った頬に手で触れ、少しでも熱を冷ましているようだった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加