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「さあさあ、今日は何にしましょう?」
百合さんがやたら長い睫毛を閉じてウインクする。
唇にひかれた発色の良い口紅が、ぷっくりとした色艶を演出している。
イコはメニューではなく、カウンターの後ろに所狭しと並べられた酒瓶を眺めて、それからグラスを吹きながら彼女たちを見守るバーテンダーを見た。
「んーマティーニを」
「じゃあ私も同じものを」
あまりお酒にこだわらないサキコは、いつもそうするのだった。
「一杯目はアタシがご馳走しちゃう!ケン、お願い」
バーテンダーのケンは会釈をすると、早速グラスを置き、作業に取り掛かった。
「そうそう、今日はちょっとしたショーもあるから見て行って頂戴な」
なるほど、それで本日はいつにも増して客の入りが良い。
フロアに並べられた八つの丸テーブルは全て埋まっているし、壁際からステージに向かって伸びている十人ほどが掛けられるカウンター席も、ほぼ埋まっていた。
百合さんはまたもウインクをすると、カウンター奥のスタッフルームに消えた。
「どうぞ」
時代に似つかわない七三分けのバーテンダーケンは、二人の前にグラスを置いた。
色男であるのに残念な髪型の男は二人に微笑む。
「ケンさんありがとう」
小さくグラスを合わせると、二回目の晩酌が始まる。
「イコはどうしたいの?これから」
サキコは火照った頬に手で触れ、少しでも熱を冷ましているようだった。
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