0人が本棚に入れています
本棚に追加
グラスに口だけつけ、しばらく考えていたイコだが、静かに置くと、台に肘をつき、手を組んでそこに顎を乗せた。
「さっき言ったことは多分本気。引き際は見極める。祖母や母を馬鹿にされたくはないもの」
その時丁度、ステージの照明が点き、ショーが始まった。
色とりどりの衣装に身を包んだスタッフたちが、サンバを踊っている。
激しいリズムに合わせて体をしならせ、お尻を振っている。オーディエンスも最高潮の盛り上がりに達していた。
しばらく眺めていたサキコがリコを見ると、彼女もそれに気付いたように視線を合わせる。
少しばかり笑顔が戻っていた。
「なんか、いいなあって思う」
少し声を荒げてサキコが言う。
イコが眉を潜めて耳を貸すので、もう一度同じことを述べた。
「なんで?」
彼女の口がそう動くので、サキコはもう一度耳打ちしようとしたところ、ムーディな音楽に切り替わった。
ピンクのライトがフロアを包んでいる。
「百合さんたちみたいにやりたいことを思い切りやれるのっていいなって」
イコは頷き、グラスに入った残りの酒を一気に体に流し入れた。そうしたかったのかもしれなかった。
「私もイコも、ここ数年はこの業界で生き残ることだけを考えていたのかもね」
そんなことはとうの昔に気付いていた。
イコは徐々に頭が痛くなり、しかし心配はかけられないので何ともない様子で席をはずした。
最初のコメントを投稿しよう!