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「ねぇ、理世ー。
このグロス、発色良くない?」
昨日買ったばかりのグロスを唇の中央にのせ、理世の方を向く。
理世は私の唇をまじまじと見つめると、口許を綻ばせた。
「ホントだー!
超赤いし、ぷるんぷるん!
穂乃、あたしにも塗ってー」
そう言って目を閉じる、理世。
ほんのりつきだした唇にブラシの先を当てる。
ふわ、ふわ、手先の感覚が怪しくなる。
時が止まったみたいに周りの音が聞こえなくなって。
蝶が蜜の甘い香りに吸い寄せられるように、
「……穂乃、まだ?」
唇に触れる寸前、ぱちりと理世が目を開けた。
「っ、塗れたよ!」
バッと体を離し、グロスのキャップを締めてハンドミラーを開いて理世に向けた。
またひとつ、シェア……出来た。
つまらない、些細なことが私を満たす。
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