第1章

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薬を飲んで一時間程経過した頃。 あたしはベッドの中からゆっくりと上半身だけ起こした。 熱でぼんやりとした身体は薬の効果もあり、幾分動ける感覚を感じた。 ベッドの横には背の高い照明しか置いていなくて、雅也はそのすぐ下にトレイを置き、飲み物を置いて行ってくれた。 ピッチャーからグラスに注ぐと、あたしは一気にそれを飲み干した。 かけられた夏用の布団からスルリと足をぬくと、床に両足をつき、立ってみる。独特の浮遊感。でも、歩けそうだ。 雅也は何をしているんだろう。 一度様子を見にいくために、あたしはリビングへと向かった。 細長い廊下を渡り、ソファの背もたれが見えるガラスの張った扉に触れる。静かにドアノブを回した。 「雅也・・・」 雅也はあたしに背を向けソファに座っていた。何かテーブルで書き物をしている。そのノートを静かに閉じた。 「毬奈。気分はどう?」 ノートをテーブル横のラックに入れ、立ち上がってあたしを迎える。 一度あたしの額に触れてから、あたしを向かい側のソファへと誘導した。 「少し下がってるね。よかった。今スープ作ってるから」 「うん・・・ありがとう・・・」 そう言われればリビングに入った瞬間香りが広がっていた。 ごめんね、食べる気はないの。 「雅也・・・また汗がひどいから・・・着替えたいんだけど・・・あたし部屋着の下はあるけど上が持ってきてないかもなの。よかったらまたTシャツを貸してほしくて・・・」 「ああ、さっきのまだ乾いてないしね。俺の部屋用のTシャツは何枚もあるから今出すよ。いつでも言って。あと、喉渇いてない?」 「・・・。少し乾いてる。冷たいお茶が飲みたい」 「甘めの飲ませてたからそろそろそう言うかなと思って用意しておいた」 予想が当たったことに嬉しそうに笑みを浮かべる雅也。 「麦茶と緑茶どっちがいい?」 言いながらキッチンの方へ。冷蔵庫を開けている。 「・・・緑茶・・・」 「カフェインなしの方がいいんだろうけど・・・薬今飲むわけじゃないから問題ないね」 グラスを出し氷を入れて注いでいる。 静かな物腰でテーブルの上にそれを置いてくれた。 「どうぞ。Tシャツ持って来るね」 「うん。ありがとう」 グラスを両手で持ち、ゆっくりと口へ運ぶ。 勿論これはアリバイ作りだ。 あたしが着替えている間雅也は寝室に入って来ようとしないだろう。
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