第1章

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「すぐ帰っていらっしゃい!」 「・・・自分が・・・どこにいるのかわからないの・・・」 「ええ!?毬奈、あなた誰といたの!?」 「・・・・・・有城雅也・・・逃げてきたの・・・」 「・・・・・・毬奈」 ママの声が、口調が一変して低く固くなった。 「今見えるものは何?目印になるような建物をいいなさい。」 「・・・ええと・・・ええと・・・」 あたしは辺りを見渡した。今自分が歩いているところは住宅街だった。何も近くには目立ったものはない。 「どうしよう・・・家ばかり・・・」 「落ち着いて。少し遠くに目をやって。背の高いビルはない?」 あたしは言われるままに遠くの方を見た。建物はある。あれは・・・。 「・・・少し離れたところに病院がある。ここからだと名前が見えない」 「じゃあそこへ向かってちょうだい。ママも迎えに行く準備をするわ」 「ママ・・・もう少し電話を切らないで・・・怖いの」 「・・・切らないわ。大丈夫よ」 「・・・あたしが悪いの・・・あたしが悪い事をしたのママ」 「毬奈。それは帰ってからゆっくり聞くわ。今はその病院へ向かいなさい」 「うん・・・。今熱もあるの」 話しているうちに安心感がどんどん膨らみ、涙が溢れてくる。 泣いているあたしの声にママはきっと気付いているけど、何も言わない。 「何度あるの?」 「わからないけど、39.4℃まで上がって、薬をもらって、下がった隙に逃げてきたの」 「そう・・・。正しい判断をしたのよ」 「・・・・・・でも最初は悪い判断をしたわ・・・・っ」 涙が止め処なく流れる。 そのせいで俊太があんな目に。 「毬奈落ち着きなさい。病院に近づいた?名前、まだ見えない?」 「・・・・・あ・・・」 歩いているうちに角度が少し変わっていた。 なんとか見えそうな状態だ。 あたしは一度かばんから手を離し、涙を拭った。 「・・・山内・・・山内森林総合病院」 「・・・。わかったわ。地図を見て行くわ。メモしたから大丈夫よ。毬奈、そこまで行けそうな距離かしら?」 「うん、行ける」 「じゃあ、駐車場じゃなくて中にいなさい。着いたらまたママから電話するから。大丈夫?」 「うん・・・うん」 あたしとママは、そうして一度電話を切った。 あたしは病院を目指して歩いた。 何度か迷ったけど、20分程で到着し、中に入ってすぐにあった椅子に座った。 大きな病院なだけあって人も沢山だ。
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