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やばいかもしれない。
縛られるかもしれない。
どうしよう。
テーブルとあたしの間には結構距離がある。そして今あたしはソファに両足も乗せて体育座りをしている。
雅也はあたしの前に来て、しゃがみ込んだ。
「ありがとう毬奈」
そう言って雅也は、あたしの膝に軽くて長めのキスをして来た。
唇を離してからあたしの膝をそっと抱きしめるように両腕で絡み、あたしと目線を合わせる。
「俺も毬奈が大好きだ。・・・俺を喜ばせたり、笑わせたり、楽しませたりしてくれるのは毬奈だけだよ。毬奈がね・・・」
雅也は優しく笑ったまま、あたしを見たまま。
「・・・毬奈が何をしても俺は怒りはしないよ。例え俺から逃げ出しても、また迎えに行くだけだから」
「・・・・・・」
あたしは表情を変えずに雅也を見つめ続ける事だけが精一杯だった。高鳴る鼓動がもう止まらない。
ばれないように、両手にお茶を持って胸元でそれを構えている。
あたしたちはただ見つめ合っていた。
思いっきり気付かれた。
最悪だ。
最低だ。あたしは本当こういうことが苦手過ぎる。
「スープの様子見てくるね」
あたしの頭にぽん、と一度手を置いて立ち上がり、雅也はキッチンへ向かった。
あたしは、妙な気分に包まれた。
それはどんな気分かと言うと
少し突き放されたような、
これまで、散々つかまえられていた雅也に急に
何でも自由にしたらと放り出された気分だった。
あたしは暫くの間、膝にTシャツを抱えてお茶を両手に持ち呆然としていた。
何気なく時計を見ると午後の3時を過ぎたところだ。
明るいうちに出たい。そろそろ用意しないといけない。
しっかりするんだ自分。俊太のことをきちんと警察に話さなくてはならない。
そうだ、しっかりするんだ。
あたしの脳裏に浮かぶ俊太。学校での俊太、一緒にお弁当を食べたとき、マックへ行ったとき。
最期の俊太・・・。
あたしのことは許しても、俊太のことは許さない・・・。
静かに、テーブルの上にグラスを置いた。
シャツを持って立ち上がるあたし。
「着替えてくるね」
あたしの声に、雅也がキッチンから返事をする。
「うん、着替えている間は部屋には行かないから、安心して」
何だかわざとらしい言葉。
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