第1章

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これは別れの言葉なの? どうしてあたしはこんな気分になるの? 「うん・・・」 あたしは緊張と妙な気分を堪えながら、寝室へと戻った。 静かな寝室へ戻り、深く息を吐く。 とにかくここから出るんだ。あたしはベッドに、実際は着ていかない雅也のTシャツをポイと置くと、自分の両方の頬を両手でパンパンと叩いた。 旅行カバンを睨む。こうなると小さいバッグにするべきだったなと後悔しつつ、カバンについているキーの数字を合わせてロック解除をした。 洗面台に置きっぱなしのものは捨てよう。 とにかく着替えよう。 あたしは下着を取り替え、脱いだものを適当にしまい込み、1セットだけ用意していた黒のスキニーデニムと少しプリントの入った白系のカットソーに着替えた。 デニムのポケットに携帯をしまう。まだ電源はつけない。 カバンを閉じて再びロックする。よし、用意は出来た。髪の毛を手で整えるだけ整える。 あとは雅也にばれなければいいだけだ。 あたしは、床にカバンが付かないように手持ちベルトの部分を持った。 静かに寝室の扉の方へ向かう。 もしや開けたら雅也がいるのでは。そんな緊張が心の中を走り回る。 カバンが大きいので、ぶつからないように注意を払う。 やはり熱があるせいで身体が簡単に発汗するが、このときのあたしは緊張で熱の感覚などすっかり忘れていた。 ドアノブを掴み、静かに開けてみる。本当に静かにだ。 廊下が少しずつ見える。 いない。誰もいない。雅也はいない。キッチンかリビングにいるようだ。 最悪玄関の扉の音くらいでなんとか済ませられれば。いや、出来ればそれも避けたいところだけど。 あたしは静かに、ゆっくり、ゆっくり、部屋を出て、後ろ手で静かに扉を音を立てないように閉めた。 カバンを宙に浮かせるように持ち、とにかくぶつからないよう最新の注意を払う。 一度リビングの扉を見る。雅也の姿は見えない。絶対に今だ。今しかない。 静かに、だけどできるだけ早く、玄関へ向かった。 音を立てずに自分の靴を揃え、カバンを支えながら靴を履く。できた。 玄関の扉を見てみると、鍵はかかっているもののチェーンはかかっていなかった。 ゆっくり回しても音は鳴るだろう。その後の素早さも必要だ。 心臓がもう痛いくらいに鳴っていた。 早く出なくちゃ。ここを出なくちゃ。
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