第1章

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あたしは鍵に手を触れた。静かに回して行く。 息が止まる。 カチン、とハッキリと音が鳴った。 しかしリビングまで距離がある。聞こえているかはわからない。落ち着け自分。でも急げ。 あたしはもう無心にも近い状態で、細長いドアノブに手を掛ける。 少し下へおろすとそれは止まり、あとは前へ押すだけ。 重みのある扉を開ける。 景色が広がる。 外の景色が見える作りとなっている建物。 またカバンがぶつからないよう気をつけ、あたしは外へ出た。閉めるときも、音を立てずに済んだ。 こうなればあとは走るだけだ。 沢山の扉を通り過ぎて、もう足音など気にせずに、あたしはエレベーターへ向かった。 エレベーターを待っている間何度も雅也の部屋の方を見たが、雅也が出てくる様子はなかった。 ・・・気付いていなかった? エレベーターの扉が開く。 飛び込むように入り、『閉』のボタンを連打する私。そして1階へ。 出れた。出ることが出来た。 マンションのロビーを通り抜け、出口を出たあたし。 外へ出てとにかく走りたかったけど、もう駆け足程度にしか走れなかった。 もう少し離れたところからママに電話をしたい。 ここじゃまだ落ち着かない。 あたしは知らない町を左右見比べ、人ごみの多そうな道をとにかく選んで歩いた。 15分ほど歩くと、商店街に辿り付いた。沢山人がいて紛れる事もできる。 ここなら目印にもなるかもと思った。 一度携帯を手に持つ。 そこでまた、あたしは変な考えが浮かぶ。 ここへママに迎えに来てもらうのは、雅也の家が近すぎると思ってしまった。 いやでも、できるだけ正確に雅也の家を警察に伝えなくてはならない。 ここまでママが来てくれれば、ママも道を覚えていてくれるはずだ。 でも・・・。 でも・・・。 警察に雅也の家がばれるのはいけないこと。 そんな思考にあたしの全身が捕らわれる。 電話をかけなきゃ、かけよう、そう思いながら 気付けばあたしは3時間町の中を彷徨って、自分がどこにいるのか、雅也の家との距離感とかは既に全く掴めないような 場所まで来ていた。いやもしかしたら近くなのかもしれない。自分がどこを歩いているのかもうわからないのだ。 そうなって初めて、携帯の電源を入れた。 ママに電話をかける。ママはすぐに応答した。 「毬奈、一体どこにいるの!?」 「・・・ママ、ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
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