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――八月二十三日。
早朝の静けさを縫うように、一台の乗用車が田舎道をひた走る。
右手に小川と田畑を流しながら 、ガードレールのない細い山沿いの道を走るその車は、前方に何かを見つけてスピードを緩めた。
停車と同時に助手席のドアが開き、中から現れたのはK県にやって来ていた坂井アヤ。
舗装されていない砂利道に出た彼女は、見つけたもののところまで駆け寄る。その後に、運転席から現れた伊波が続く。
「あなた、もしかして結城カスミちゃん!?」
アヤは屈み込んで彼女の両肩を掴み訊ねる。
「…………」
だが、彼女がアヤの問いかけに答えることはない。彼女の瞳は、虚ろに遮るもののない空を捉えていた。
アヤはその姿を見て、先日の結城シグレの姿を思い出す。
彼女の背後には、大きな赤い鳥居。
そう、ここは彼女――結城カスミたちが初めて訪れ、そしてあの忌まわしい雛鷹村へと向かうきっかけになった場所である。
彼女は地べたにへたり込み、その鳥居に凭(もた)れかかっていたのだ。隣を見ると、左の脇腹から血を流したツカサの姿が。
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