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「あ、ごめんなさい。着信に全然気づきませんでした」
何故か棚橋が謝り、頭を下げた。それを見て、冬馬はやっと気づく。棚橋が持っている携帯電話が、自分の物であることに。
「はい、お返ししますね、冬馬先輩」
「おい。いつの間に俺の携帯電話をくすねやがった」
「あ、冬馬先輩が教室からトイレに行った時です。二年生の教室に入るのは少し恥ずかしかったのですが、幸い先輩のおかげで初めてではなかったので、結構堂々と盗ることができましたっ」
冬馬は、姉と妹以外を女とは思っていない。なので、少し強めに、棚橋の頭を殴った。
「いったーい!何するんですか先輩っ!せっかく、私の写メを待ち受けにしておいたのにっ!」
「余計なことすんじゃねぇよっ。ったく、面倒臭い」
二人のやり取りを、真冬と千鶴は嬉しそうに眺めていた。
確かに、冬馬は棚橋涼子が苦手だし、正直二度と図書室に来ないで欲しいとさえ思う。
けれど、こうやって姉と妹が揃って笑っている姿を見られる奇跡が、こいつの厄介な悪癖のせいであることは否定できない。
「うぐぐ、例え殴られても、私は冬馬先輩を諦めたりしませんからね。ずっと纏わりついて、面倒臭い毎日を提供し続けてやりますからねっ!」
だから、冬馬は今日も溜め息を吐く。
「勝手にしろ」
こうして、今日も明日も、日下部冬馬の面倒臭い学園生活は続く。
Fin.
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