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「大路春だ。一応、俺の入学以来の友人だからな」
「ええ!?先輩ってお友達いたんですか!?」
「お前、やはりさっきの話聞いてなかったんだな。そしてやはり俺のことをボッチだと思っていたんだな」
「だって、こんな社会不適合者にお友達だなんて……」
「いいことを教えてやろう。お前が女じゃなきゃ殴っている」
「女という偉大な性別に産んでくれたお母さんに感謝ですね」
棚橋涼子には、威嚇や脅しは通じない。きっと恐れるということを知らないのだろう。馬鹿だから。
冬馬は「これが最後」と思いながらもう一度だけ溜め息を吐き、改めて棚橋涼子に視線を向けた。
「とにかく、そういうわけだ。こんな社会不適合者ですら社会に適合させてしまっていることから、奴の“波風を立てない才能”というやつを認めてやってくれ」
「まるで長年妻の尻に敷かれ続けているサラリーマンのような才能ですね」
「この学園じゃあ目立たないが、必要な才能だろ」
「うーん……確かに。分かりました。冬馬先輩がそこまで言うなら、私は納得します。写真部の件は、もう気にしないことにします」
晴れやかな顔で頷く棚橋に、冬馬は安堵する。が、当然それも束の間のことである。
「ところで、先輩の読んでいるそれはどういう本なんですか?先輩はどんな本が好みなんですか?好きな食べ物は?テレビ番組は見ます?趣味は?他にはどんな友達が?普段お友達とはどんなことを話すのですか?」
最後にしようという決意はあっさり崩れ、冬馬は本日何度目か数えることを諦め、溜め息を吐き出すのだった。
「棚橋……うるさい黙れ」
「え、嫌ですけど?そんな一方的な要求、筋が通っていません。私は納得しませんよ」
結局この後、冬馬はまた何度か溜め息を吐くことになるのであった。
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