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 柔術場は百二十畳ほどの広さで、分厚いクッションの上に畳が敷き詰められている。東の壁には皇室の祖先を祀(まつ)った神棚が設置されていた。高い窓から射すのは秋の午後の乾いた光だった。タツオたちは授業の始まる五分前には柔術場に集合していた。  進駐官養成高校で教える日乃元(ひのもと)柔術は、通常の高校の部活動にあるようなスポーツではなかった。相手をいかに短時間で効果的に戦闘不能にするか、あるいは殺害するかを教える実戦向きの戦場格闘技である。  指で目を突く、金的(きんてき)を蹴る、喉(のど)を潰(つぶ)す、なんでもありである。また、その技術を磨かなければ戦場で体格に勝るエウロペやアメリアの兵士たちに太刀打(たちう)ちできないとされていた。
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