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早速来るのか……。
面倒なものだ。
そして唯織は山の方に目を向ける。
ひかりが時折ちらつくのは、恐らく探している人間たちの灯だろう。
唯織は、枝の間を器用にすり抜けるように飛ぶ。
瞬く間に人間たちがいる場所の近くにたどり着くと、彼らに見つからないような枝の中に紛れたまま、大声で叫んだ。
「美咲が家に戻ったぞーーーー!!」
すると、その中でも年配の男性が声を上げた。
「何? 美咲が家に戻った?」
「なんだ、戻ったのか?」
「今、誰かがそういうのが聞こえたんだが」
「俺たちには聞こえなかったぞ?」
すると、その男性が大きな声で笑い出した。
「さて美咲のやつ、天狗様の世話になったな」
「何? 天狗様?」
「天狗様のお声が聞こえるようになったんじゃ、俺のお迎えも遠くないのう!!」
言っていることとは対照的に、明るい声で笑いながらその男は下山していく。
周りにいた他の人間たちも、不思議そうな顔をしながら一緒に山を下りて行った。
「あの爺、俺の声が聞こえるのか」
通常、天狗たちの話し声や姿を見ることができるのは、子ども、そして特殊な能力を持った霊力の強い人間だけだ。
稀に年寄りにも彼らの姿が見えることがあるらしいが、このあたりの人間はそれほど天狗に対して恐ろしいという考えを持っていない様で、どちらかと言うと守り神として信仰をしているのだろう。
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