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大声で騒がれてはかなわない。
そっと屋根から顔を出すと、涙で顔を濡らした美咲がニコニコしながら唯織を見た。
「どうしたの?」
「それは俺が聞きたいことだ。 俺の名前を呼んだだろう。 うるさくてかなわないから、やめろと言いに来たんだ」
冷たい口調で言ったつもりだったが、美咲は笑ったままだ。
「来てくれたんだ」
「違う……。 俺はただ……」
「ありがとう」
そう言われてしまっては何も返せない。
唯織は無理に話題を変えた。
「何で泣くんだ。 なんで俺の名前を呼んだ?」
美咲は少し俯くと、小さな声でつぶやく。
「ママとパパのことを思い出すの」
「お前の両親のことか」
「目を閉じるとね、パパとママが事故にあった日のことを思い出すの。 雨が降って、傘をお家に忘れてきちゃったから……。 パパとママがお仕事お休みの日だって知ってたから、お家に電話したの。 迎えに来てって。 その途中で、交通事故に遭って。 パパとママは私のせいで死んじゃったの」
「美咲……」
「怒ってるかな、パパとママ」
再び泣きだす美咲を見ているうちに、自分の両親のことを考えてしまう。
初めて唯織が両親はどこにいるのだと聞いた時、彼の祖父は唯織のことを庇って死んだのだと答えた。
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