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まだ自力で飛ぶこともできず、何の力も持たない唯織を庇って、両親は死んだのだと。
だから、今度は自分の家族を、天狗一族を守るために強くなれ。
そう教えられてきた。
「なぁ、美咲。 俺がいい場所を知っている。 一緒に来ないか」
「え? どんなところ?」
「俺しか知らない場所。 昼間のハンカチの礼もある。 連れてってやるよ」
「本当?」
「うん」
美咲はにっこり笑うと、腕を唯織に向かって伸ばした。
唯織は彼女の小さな手を掴むと、屋根へと引き上げる。
一旦彼女をおろし、背中に乗せるとそのまま空高く飛び上がった。
「しっかりつかまってろよ」
唯織は風を起こしながら夜空を舞う。
唯織がおこした風で木がうねり、家々は軋んだ。
大天狗松神社にある天狗松の下をくぐり、結界の中へと入る。
そのまま森を抜け、時々大きな洞窟などを通り抜けながら、天狗山の頂まで一気に上がる。
そして、その山の頂上にある一番大きな松の一番上の枝に留まり、美咲を降ろした。
「これがこの山の守り神、本当の天狗松だ。 普通の人間はここまで来られない。 天狗にとっても神聖な木だから、ここに近づく奴らはあまりいないんだ」
「へぇ……。 すごいね……」
美咲の目の前には、大きな満月が浮かんでいた。
眼下には雲があり、真っ暗闇の中で満月が一際明るく見える。
その周りでは時折流れ星が瞬く。
天の川さえもはっきりと見えるほど、秋の夜空は空気が澄んでいた。
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