第1章

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「おい、あれ見ろよ」 木々が赤く染まる秋。 この時期、山にはたくさんの人間がやってくる。 唯織たちが住む天狗の縄張りは山奥にあり、しかも人間たち二荒らされないように強い結界が張ってある為、相当なことが無い限り人間たちが迷い込んでくることはない。 しかし時として、どういうわけか結界を破ってくる人間がいる。 そしてその多くは、まだ小さな子どもだ。 昔はよく人里に下りて人間たちを脅かしてやったりしたらしいが、近ごろの人間はそういうものをはなから信じていないせいか、いたずらを仕掛けても気づきやしない。 それどころか山を切り開いては街を広げ、天狗の縄張りを物怖じすることなく奪っていく。 信じる者がいなければ、妖怪の力はたかが知れているのが現実だ。 侵略を続ける人間たちから少しでも住処を守る為、縄張りに結界を張り、人間たちから隠れるように暮らすようになった。 そんな毎日のことだから、天狗たちはさしてやることが無い。 仲間同士で修行に励んだり、山の守り神として他の生き物たちや妖怪たちを取りまとめる役目は果たしているが、本当にやることが無い。 簡単に言えば、暇なのだ。 そんな暇な日々の中に迷い込んでくる子ども。 結界を破って、人間界からは少しずれた空間に入り込んでくるような子どもだから、天狗たちの姿が見えることが多い。 怖がって泣き叫びながら走り回る子どもを総力を挙げてさらに怖がらせ、泣き疲れて眠ってしまった頃に人目につくところに帰してやる、と言うのが、若い天狗たちの間で最高の娯楽になっていた。
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