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「唯織、早く来いって」
唯織と呼ばれた天狗は、人間たちが想像している山伏の姿をした赤ら顔の天狗とは異なる。
色白で、漆黒の髪を持ち、鼻は高いが人間とさして変わらない。
瞳が黄色に近い琥珀色であり、背中には漆黒の大きな羽がついている。
殆ど人間と変わらない出で立ちではあるが、獣のような目と羽が紛れもなく彼が人間ではないことを証明していた。
服装は黒い狩衣姿に烏帽子をかぶっており、世間一般にみられる山伏の姿とは異なる。
唯織は呼ばれているのに気にも留めず、大きな紅葉の木の枝の上でうたた寝を続けた。
「柊、うるさいぞ。 俺が今何をしてるのか分からないのか」
柊は唯織とは反対に色黒で、目は唯織と同じ琥珀色、羽根と髪の色が茶色である。
水干姿で草履をはき、手には大きな団扇を握っている。
枝の上で寝転がる唯織を見てため息をついた柊は、傍にあった枝を折って、伊織に投げつけた。
枝は唯織の頭にヒットし、顔を赤くした唯織が怒鳴る。
「バカ野郎、何すんだよ!!」
「バカはお前だよ!! 少し黙ってこっちに来い。 人間が来たぞ」
「何!? 人間だと!?」
唯織は、柊がのっている一番下の枝まで飛び降りた。
柊がさす方向を見ると、確かに人間の女の子が歩いてくる。
不安そうにあたりを見回しながらこちらに歩いてくる。
「なんでもっと早く言わないんだよ」
「お前が無視したんじゃねえか」
「あの子、まだ子どもか?」
「そうだな……、10歳かそこらくらいじゃないか? どうする? もうすぐ日が暮れるぞ。 人間のふりしてふもとまで連れて行ってやるか?」
「馬鹿。 それじゃ面白くないだろ?」
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