第1章

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美咲が涙目になるのを見て、唯織はハッとした。 「すまない、辛いことを思い出させるつもりはなかったんだ……」 「いいよ」 実は唯織にも両親がいない。 名のある天狗一族で育ちはしたのだが、本当の父親と母親の顔は知らない。 昔、とある妖怪から唯織を守ろうとして死んだ、と祖父母からは聞いている。 今は、祖父母夫婦と一緒に暮らしている。 美咲と同じ境遇にあるからこそ、彼女の痛みはすぐに分かった。 美咲に共感しているのが分かったのか、柊が低い声で唯織につぶやいた。 「お前、あまり人間に深入りするな。 ろくなことにはならない」 「分かっている……」 「これ以上この子に関わるのはよくない。 早く村に返してこよう」 「おう……。 俺が行く」 「大丈夫なのか?」 「大丈夫だ。 お前は外の結界が破れてないか見てきてくれ。 またこんなガキが頻繁に来られちゃ敵わない」 「おう」 そういうと、柊は羽を広げて飛び立っていった。 「凄い、天狗様って本当にいるんだね……」 「お前が生まれるずっと前からここにいるんだ。 何もそんなに不思議がることはないだろう」 「でも、私が知ってる天狗様と違う。 もっと怖い顔で、お洋服も丸いふわふわがついてる変な洋服を着てるのかと思ってた……」 「顔は、お前ら人間が勝手に鬼みたいな顔に変えただけだ。 服装は、驚かした人間のものを奪っている。 人間界で強いとされる奴の服を着ているほど、強いという証明になるんだ」 「じゃ、そのお洋服もあなたがびっくりさせた人のなの?」 「おう、そうだ……」
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